安全基準(読み)あんぜんきじゅん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「安全基準」の意味・わかりやすい解説

安全基準
あんぜんきじゅん

各種の施設、物品、設備などについて生活の安全を守るために定められている行政上の基準をいう。個々の分野ごとに必要に応じ法律ないし法律に基づく政令、省令、告示等で定められる。製造業者や設置者等にその遵守を義務づけ、不遵守の場合、基準適合命令、使用停止命令、許認可の取消し、刑事罰などの手段により、基準の遵守を図るとともに、制裁を加えるのが普通である。もともとは、安全の問題は加害者と被害者の私法関係の問題として扱われ、行政的には、これを私人間の問題として放置しておくことが適当でないと考えられるものに限って基準を置くものであるから、安全基準のない分野も少なくない。もっとも、施設も物品も複雑になって、消費者や利用者にとって、自らの安全を自ら守ることが容易ではない今日の社会では、行政による安全基準の設定が増加する傾向にある。しかし、それでも、行政上の安全基準は一般に絶対的な安全性を追求するものではなく、経済性、技術上の可能性との妥協の産物として定められるから、安全基準を守った施設や物品といえども、注意深く利用しないと、しばしば事故が発生する。

 この安全基準は、直接には製造業者等に対する行政的監督のためのもので、私人間の法律関係を規律するものではないから、欠陥物品により事故が発生した場合、それがたとえ行政上の安全基準を守っていたとしても、製造業者は被害者に対する民事上の責任(民法709条、717条、製造物責任)を免れうるものではないし、行政上の安全基準の設定がないからといって、製造業者に安全な物品を供給する責任がないわけではない。

[阿部泰隆]

安全基準の実例

行政上の安全基準の例としては次のようなものがある。労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第37条以下は労働災害の防止のため機械や危険物、有害物について基準を設けて規制している。鉱山保安法(昭和24年法律第70号)第19条は鉱山労働者に対する危害を防止するため、鉱業権者には保安規程を定めさせるとしている。道路運送車両法(昭和26年法律第185号)第40条以下および同法に基づく道路運送車両の保安基準第2条以下、第59条以下、第68条以下は自動車、原動機付自転車軽車両自転車など)の安全基準を定め、そのうちの一部(二輪の軽自動車小型特殊自動車などを除く。同法58条1項、同法施行規則35条の2)を車検で担保する。航空法(昭和27年法律第231号)第10条は航空機の安全性を確保するための技術上の基準を設定し、その強度、構造、性能がこれに適合するかどうかを検査し、適合すると認めるとき耐空証明をする制度を置いている。船舶安全法(昭和8年法律第11号)は、堪航(たんこう)性を保持し、かつ人命の安全を保持するに必要な施設を備えない船舶を航行の用に供してはならないとして基準を設けている。

 消費生活用製品安全法(昭和48年法律第31号)は、消費生活用製品のうち、構造、材質、使用状況などからみて一般消費者の生命または身体にとくに危害を及ぼすおそれが多いと認められる製品を規制しているが、具体的には政令で定められている。同法にいう「特定製品」としては、(1)家庭用の圧力なべおよび圧力がま、(2)乗車用ヘルメット(自動二輪車または原動機付自転車乗車用のものに限る)、(3)乳幼児用ベッド、(4)登山用ロープ、(5)携帯用レーザー応用装置、(6)浴槽用温水循環器、(7)石油給湯機、(8)石油ふろがま、(9)石油ストーブ、(10)ライターのなかで、一定規模のものが指定されている。これについては、一定の技術上の基準に適合しなければ製造・輸入できず、この基準に適合しているとの表示をしなければ販売できない。

 さらに、その製造または輸入の事業を行う者のうちに、一般消費者の生命または身体に対する危害の発生を防止するため必要な品質の確保が十分でない者がいると認められる特定製品は「特別特定製品」として、乳幼児用ベッド、携帯用レーザー応用装置、浴槽用温水循環器、ライターが指定されている。これは主務大臣の登録を受けた者による適合性検査を受けなければならない。

 また、消費生活用製品のうち、長期間の使用に伴い生ずる劣化により安全上支障が生じ、一般消費者の生命または身体に対してとくに重大な危害を及ぼすおそれが多いと認められる製品であって、使用状況等からみてその適切な保守を促進することが適当なものは、「特定保守製品」として、ガス瞬間湯沸かし器、石油給湯機などが指定され、基準が設定されるほか、種々の行政上の監督が行われる。

 さらに食品衛生法(昭和22年法律第233号)は食品、添加物の品質もしくは容器包装につき、公衆衛生の観点から基準を定めて規制している。医薬品医療機器等法(旧、薬事法。昭和35年法律第145号)は医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器を、ガス事業法(昭和29年法律第51号)はガス用品を、電気用品安全法(昭和36年法律第234号)は電気用品をそれぞれ規制している。「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」(昭和48年法律第112号)は家庭用品について有害物質の含有量、溶出量または発散量の基準を設けている。廃棄物処理法(昭和45年法律第137号)は、一般廃棄物、特別管理一般廃棄物および産業廃棄物、特別管理産業廃棄物の収集、運搬、処分の基準ならびに有害な産業廃棄物に係る判定基準を政令で定めるとしている。建築基準法(昭和25年法律第201号)は建築物の敷地、構造、建築設備について安全の観点から規制し、消防法(昭和23年法律第186号)は消防用機械器具等の検定制度を置くとともに、消防用設備について技術上の基準を設けている。

[阿部泰隆]

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