神奈川県南西部,箱根火山の火口原湖。縄文後期に中央火口丘の神山(1438m)の水蒸気爆発によって,神山北西部が破壊され,その土石流によってカルデラ平原の一部がせき止められて生じた。湖面標高725m,最大水深40.6m,面積6.8km2。透明度はかつて16mであったが,現在は汚水の流入により富栄養化に向かい4~7mである。水深25m以深の水温は7℃前後で,ほぼ一定しており,冬季結氷しない。夏季は表面と深部の水温差が大きいため遊泳は危険である。湖水は周囲の山々に降る雨水起源の地下水によって涵養(かんよう)されており,大きな流入河川がないことが特色である。芦ノ湖南端に長さ3km,幅3mの大明神川が流入するが,1930年北伊豆地震の際,この川の谷頭より山津波が発生し,河床が埋没したため,河川水の大部分は伏流水となった。芦ノ湖の水は本来湖尻から早川に排出していたが,寛文年間(1661-73)駿河国深良村名主大場源之丞が外輪山西部の湖尻峠下を貫く箱根用水を掘削して以来,平均日量15万tの水が深良トンネルを経て裾野市方面に流出している。現在では大雨による危険がある時以外,湖尻の逆川水門を経て早川に流出する水はない。1898年芦ノ湖水利権に関して,芦ノ湖水の一部を早川に落とすため逆川口に築かれた甲羅伏せの石垣の一部を仙石原住民須永伝蔵らが取り除き,深良水利組合と紛争をおこした逆川事件が発生した。波の静かな時,湖面に映る富士は〈芦ノ湖の逆さ富士〉と称されて古くから有名であり,また西岸に近い湖底には多数の巨大湖底木が直立し,江戸時代までは湖面上にこずえを出し,湖面に映る樹木を〈芦ノ湖の逆さ杉〉と称していた。これは南関東の内陸部で発生した巨大地震によって,湖岸に生えていた樹木が,発生した土石流にのって立ったまま湖底に移動したもので,炭素14年代決定法によって,古墳時代初期と平安時代初期の二つのグループが認められている。観光船,漁業に障害になるため水深4~5mのところで切り取られ,現在水面上にこずえを出すものはない。1880年にマスの放流が行われたのが芦ノ湖養魚の始まりで,現在ヒメマス,ニジマス,ブラックバスなどの放流が行われている。湖岸にある箱根神社の2月3日の節分祭,3月1日の釣り解禁,7月31日の芦ノ湖九頭竜伝説にもとづく竜神祭(湖水祭)などの行事がある。
執筆者:大木 靖衛
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神奈川県南西部、箱根町にある湖。富士箱根伊豆国立公園に含まれ、箱根景勝の中心ともいえる。箱根火山の火口原湖で、ひょうたん形をし、南のほうが広くなっている。周囲18キロメートル、面積6.8平方キロメートル、最大深度40.6メートル、水面の標高725メートル。水は薄藍(うすあい)色で、透明度は以前は大きかったが、近年は観光開発の進んでいる元箱根付近ではしだいに小さくなってきている。芦ノ湖から眺める富士山は日本一の景勝といわれる。古来、箱根権現(ごんげん)(箱根神社)の御手洗(みたらし)池とされ、祭礼をはじめ諸行事にあたっての潔斎の場とされ、境内の一部にもなっていた。1666~1670年(寛文6~10)には湖尻峠の下に深良(ふから)用水(箱根用水。トンネルの長さ1.3キロメートル)が掘られ、これを通じて外輪山の西斜面(黄瀬(きせ)川流域)へ灌漑(かんがい)用水が送られることになった。以後芦ノ湖の水利権は静岡県側の水利組合に属し、地元箱根町の湖水の自由利用は規制されたままで、水利権者と地元との湖水利用の調整が課題となっている。1925年(大正14)湖水に放流された北アメリカ原産のブラックバスはここの名物となり、ヘラブナやヤマベ、ニジマスなどの釣りも楽しめる。箱根―元箱根―箱根園―湖尻間には定期遊覧船が通う。
[浅香幸雄]
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…最高峰は神山(1438m)。火山基底長径は30km,体積は96km3(日本の火山中第7位)の大きさをもち,新旧二重のカルデラと神山,駒ヶ岳などの7個の中央火口丘群よりなり,中央火口丘群とカルデラ西壁との間に芦ノ湖を抱く。古期カルデラの外輪山は明星ヶ岳(924m),明神ヶ岳(1169m),金時山(1213m),三国山(1102m),大観山(1014m),白銀(しろがね)山(993m)を連ねた標高900~1200m,長径12km,短径10kmのほぼ三角形状の尾根よりなる。…
…箱根の芦ノ湖の水を駿河国(静岡県)駿東郡に引水した灌漑用水。はじめ箱根掘貫,のちに深良(ふから)用水と呼ぶ。…
※「芦ノ湖」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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