御伽(おとぎ)草子。《扇合(おうぎあわせ)物語》《花風物語》ともいう。萩原院(花園天皇)の御代,都西山の葉室中納言の御所で扇合が行われたおり,公卿1人と口覆いをした女房とをかいた希代不思議の絵をめぐって,これを在原業平とする側と光源氏とする側との二手に分かれて相論に及び,巫(みこ)の花鳥・風月に占わせることとなる。両人はもと出羽(でわ)羽黒の者で,人を梓(あずさ)の弓にかけて口寄せすること神変(じんべん)奇特の姉妹で,業平側の人々の問いに応じて花鳥は短冊一つ取り出し,早速業平と占う。花鳥は梓の弓を打ち鳴らし一首を詠じ,風月は問い手となり,業平の一代記が語られるので,人々は身の毛もよだつほど驚く。源氏側の人々が,占いが合う合わぬはともかくと促すや,花鳥は神鏡と仰ぐ三尺の鏡の前でその徳を語り,精を出して光源氏の姿となり,名のりをしてわが一代の罪障を泣きつくどいつ懺悔して語る。風月も末摘花(すえつむはな)となって鏡にあらわれ,物ねたみして狂い,光源氏と問答を交わし,扇の絵をいつぞやの雪の後朝(きぬぎぬ)をかいたものと語り終え姿を消す。中納言は,扇の絵の不審からまのあたりに昔語りを承ったから後世菩提を弔おうと言って,さらに《源氏物語》の秘事を問うと,巻名を順に織り込みつつ語るので,狂言綺語の戯れに接した一同は奇特に思い多くのほうびを与えた。《伊勢物語》《源氏物語》の啓蒙書としての色が濃く,物語としては一貫性に欠けるが,扇合の場をかりて梓巫(あずさみこ)に昔語りをさせる趣向がいかにも室町風である。素材として源氏注や伊勢注が想定され,また当時の梓巫の生態が活写されているのも興味深い。源氏供養の風潮とも関係あるか。室町期末ごろの奈良絵本をはじめ伝本の数も多く,版本《衣更着(きさらぎ)物語》は上巻に室町以来の〈扇の絵巻〉の形式を踏襲した〈扇合〉を,下巻に〈花鳥風月〉を当て,挿絵にかなりの重点を置いている。
執筆者:徳江 元正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 四字熟語を知る辞典四字熟語を知る辞典について 情報
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