北海道南西部、太平洋に面した工業都市。1948年(昭和23)市制施行。市名はアイヌ語マコマイ(山奥に入っていく川の意)、ト・マコマイ(沼のマコマイの意)などによる。JR室蘭(むろらん)本線と日高(ひだか)本線・千歳(ちとせ)線、国道36号と234号、235号の分岐点にあたり、276号、道央自動車道も通じる。
勇払(ゆうふつ)平野の一端に位置し、火山灰と泥炭の土壌、浜堤(ひんてい)列が続く土地条件の悪い地であった。江戸時代には勇払会所が置かれ、八王子千人同心による開拓が試みられたが失敗に帰したという。1910年(明治43)王子製紙の工場が立地したのは、樽前山麓(たるまえさんろく)の森林資源、苫小牧川の清流、千歳川の発電、室蘭本線の交通の便によるものであるが、さらに1943年(昭和18)勇払に国策パルプ(現、日本製紙)の工場ができ、以来、紙と木材関連の単一工業の町として知られるようになった。1951年北海道総合開発計画の一環として、日本で最初の掘込み式の苫小牧工業港(苫小牧港)の造成が始まり、1972年完成、1981年特定重要港湾の指定を受けた(2011年、港湾法改正により、国際拠点港湾に変更)。苫小牧西港の臨海部に苫小牧西部工業地域が形成され、アルミ、石油精製、電力、自動車、化学、食品などの工場が集中し、市は従来の製紙・木材中心から総合工業地の様相を呈するようになった。一方、苫小牧港では、石炭・紙の移出、原木・自動車・セメントの移入が行われ、仙台・名古屋などを結ぶフェリー輸送もあり、商港としても室蘭市と競合するようになった。
1969年の計画案決定以来、当市東部から厚真(あつま)町、安平(あびら)町にかかる苫小牧東部開発計画(苫東工業地域)が設定されて、1980年以降、厚真町に苫東厚真発電所や苫東コールセンターが立地し、その背後の原野に石油備蓄基地の巨大なタンクが並び、自動車および同関連工業、機械、金属、化学、流通などの企業が進出した。苫小牧東港は1980年供用開始された。苫東開発は、苫小牧東港と新千歳空港に隣接した臨海・臨空型の国家プロジェクトによる地域開発として期待されたが、1970年代の石油危機や1990年代の景気低迷などにより期待通りには進んでいない。
西部の樽前山は支笏洞爺(しこつとうや)国立公園域の火山。また、勇払平野の一端に広がるウトナイ湖は、水鳥たちの楽園となっている。「ウトナイ」とは、アイヌ語で「小さな川の流れが集まるところ」という意味で、この湖には美々(びび)川などが清流を注ぎ、湖の周辺には原野や湿原が広がる。1991年(平成3)には、日本で4番目にラムサール条約登録湿地となった。面積561.57平方キロメートル(一部境界未定)、人口17万0113(2020)。
[奈良部理]
『『苫小牧市史』全5巻(1976・苫小牧市)』
北海道南西部,太平洋に面する市。1948年市制。人口17万3320(2010)。トマコマイの〈ト〉は沼の意で,本流のマコマイ川(マク・オマ・ナイ[山の方に・入っている・川])に対し,〈沼のあるマコマイ川〉の意味である。西に樽前山がそびえ,東に勇払(ゆうふつ)原野が広がる。江戸時代には勇払川河口の勇払に幕府直轄の勇払会所があった。1910年泥炭地の原野に王子製紙の工場が設置された。樽前山麓の豊富な原木,支笏(しこつ)湖を水源とする電力と用水,夕張炭鉱の石炭に加えて,北炭鉄道(現,JR室蘭本線)により室蘭港に近い交通の有利さもあって,以後〈製紙の町〉として急速に発展した。長い間王子製紙のほか国策パルプ勇払工場,岩倉組ハードボード工場を中心とする単一産業都市であったが,1951年北海道総合開発計画の一環として掘込み式人工港の苫小牧築港が着手され,その後アルミニウム,化学肥料,石油などの工場が進出,7万トン級埠頭ももつ大港湾を中心に臨海工業地帯が形成された。製造品出荷額では6300億円(1995)をあげ,札幌市に次いで2位を占める。苫小牧港は66年外国貿易港,81年特定重要港湾に指定された。隣接する厚真町と安平町の旧早来(はやきた)町にまたがる地区の苫小牧東部開発計画も進み,電力,自動車などの企業が進出している。また市は89年には道央テクノポリスの指定をうけ,新千歳空港に近く,道央自動車道も通じて,先端技術産業が発展している。市街地には王子野球場,王子体育館,スケートリンクなど王子製紙関連の施設があった。ハクチョウが飛来するウトナイ湖があり,樽前山や支笏湖にも近い。JR室蘭本線,日高本線が通じ,沼ノ端で千歳線を分岐する。苫小牧港には大洗,仙台などからフェリーが通じる。
執筆者:奥平 忠志
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