改訂新版 世界大百科事典 「荘園絵図」の意味・わかりやすい解説
荘園絵図 (しょうえんえず)
田図の一種。荘園の位置,景観,境界,耕地,施設などを絵画的に表現した古代・中世の地図。作成の意図,地形・地物,画師の技量などによって図様は一定しない。単なる平面図のようなものもあるが,なんらかの絵画的表現が加味され,必要な文字が記入されているものが多い。彩色を施したものや白描風のもの(白図)がある。平地部は平面図ないし鳥瞰(ちようかん)図に近い表現をとるが,複雑な地形が描写の対象となった場合,全体を一点の高所から見た鳥瞰図様に描いたものと,視点を移動させ,複合的な景観図様に描いたものと,二様に大別できる。後者の場合,一つまたは二つ以上の視点に立って四囲を見回した景観を描いて山地をあらわすのが荘園絵図を通じた描法の特色である。
荘園絵図の図様を時代的推移に関連させて分類すれば,(1)墾田図,(2)立券図,(3)実検図,(4)差図,(5)相論図,(6)下地中分図,(7)郷村図などに大別される。(1)墾田図 班田制下に発生した初期荘園(墾田)を対象としたもの。同時代に国家の手で作成された班田図と同系統の図様で,なかには班田図の一部を写しとったと思われるものもある。条里区画が描かれ,坪ごとに所要の文言が記入される。立券時の所有関係の変動を注した詳細なものもある。領主側の使者,国(郡)司の連署が加えられるのが通例。(2)立券図 11世紀以降,荘園制の成熟期に作成されたもの。立券文に付帯して作成され,領主側の使者,国使,官使の連署がみられ,3者たちあいの下に立券され,同時に図が描かれたことがわかる。四至を明確にすることに一つの目的があったようで,図様は墾田図とは比較すべくもないほど概観的なものである。(3)実検図 鎌倉期以降になると領主が荘園の現地を掌握する必要を生じ,検注使を派遣して調査させた結果を図にしたもの。耕地の一筆ごとに所有関係を注した詳細なものもある。(4)差図 荘園内部の諸施設,ことに用水施設などを描いたものが多く残っていて,中世以来分水の権利関係を確保するためにこの種の図がしばしば作られた。きわめて狭少な土地の売買などに伴って作成された簡単な図面も差図の一種といってよかろう。(5)相論図 隣接する荘園などと相論があった場合,証拠書類の一つとして描かれた図。相論の内容によって図様は異なり,注記された文言も一様でないが,境界線ないし四至や係争地,係争事項にかかわる描写や注記が詳細なのが特色。(6)下地中分図 鎌倉期以降,領主と地頭,あるいは在地武士の一族の間などで土地支配をめぐる相論が絶えなかったが,相論の結果下地中分が行われた場合に作成された図である。和与の結果決まった境界線が図中に引かれ,双方の責任者が署判を加える。2部作成されて両当事者が1部ずつ保管したと推定される。和与状のみではわからない複雑な下地中分の実態が視覚的に表現される。(7)郷村図 14世紀以降荘園制が崩壊し郷村が成立しはじめると,荘園領主は郷村を直接に掌握しようとする。郷村図はそのために作成された図。江戸時代の村絵図に比べればすこぶる概観的なもので,荘園絵図の姿を残している。
執筆者:弥永 貞三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報