「はりた」と読み、「治田」とも表現される。本来、新規に開墾した田地をさすが、開墾予定地として取得した土地をも含めていう場合もある。律令制(りつりょうせい)以前における開墾状況の詳細は不明だが、「治田連(むらじ)」の氏姓名や「治田」「幡多」などの地名が存し、また開墾にまつわる説話も存して、朝廷の屯倉(みやけ)経営、豪族の私有地経営、国造(くにのみやつこ)の部内経営などの場で、かなりの開墾が行われたと思われる。律令制の下では、水利は政府の管理下に置かれたので、水田の開発は原則として政府の行うべき仕事であったと考えられ、水田の増加は国司・郡司の勤務評定に際して治績の一つに数えられている。令(りょう)の条文には、荒廃田の再開墾に関する規定と、国司の在任中の任国における未墾地の開墾に関する規定とがあるだけで、一般的な未墾地の開墾に関する規定を欠いている。しかし現地の農民自身の手による小規模な開墾まで否認したとは思われない。大宝令(たいほうりょう)の注釈書『古記』が「百姓墾」に言及しているのはその現れとみてよい。また大化前代まで私地私民をもっていた貴族や豪族が、新たな田地所有の手段として原野の先占(せんせん)とその私費開墾をかなり行ったことも史料の行間に読み取ることができる。711年(和銅4)政府は一方において貴族有勢者たちの山野占有を禁断するとともに、他方、正式に申請することによって開墾を認める措置をとっている。さらに722年(養老6)には、政府は公費によって良田百万町を開墾する計画をたてたが、これは机上のプランにすぎなかった。
開墾が本格的に行われるようになったのは、723年の三世一身法以後、ことに743年(天平15)の墾田永年私財法以降のことである。この後、墾田は増加の一途をたどり、権門勢家や寺院の強圧、国司の不正などによって地味のよい口分田(くぶんでん)用地と交換されるなどのこともおこり、班田収授法崩壊の一因となった。ことに寺院は自らの開墾のほか、買得や寄進によって墾田を集積し、荘園(しょうえん)を形成していった。また平安時代に入ると、勅旨田の名のもとに政府が人民に賃銀や食料を支弁して開墾させることも行われた。この勅旨田は上皇や親王などに与えられたり、また寺院に寄進されたりしている。墾田は一般に輸租田であったが、勅旨田は不輸租田。古代末から中世にかけて、新規開墾田は「新田」「別名(べつみょう)」などとよばれて、墾田の語はしだいに姿を消してゆく。
[虎尾俊哉]
未墾地に対する既墾田を意味する場合と,新たに開墾した田を意味する場合とがある。また開墾予定地を墾田地ともいう。古代の史料では,新たに開墾した田をさす場合が多く,治田(はりた),開田(見開田)などとも呼ばれた。墾田の語は主として古代から中世に用いられ,近世には新田の語が用いられた。日本では水稲耕作が農耕の中心となるので,墾田も水田が主となり,灌漑・排水などの施設の造成が,墾田開発のなかでも重要な地位を占めた。弥生時代の初期の水田は,低湿地に作られたので,排水施設の造成が主要な作業となったと考えられるが,古墳時代中期ごろから,大陸の乾田農法の影響の下に,地下水位の低い台地などの大規模な開墾が進められた。U字形の鉄製すき・鍬先が使用されるのもそのころからで,大規模な池溝の開発が,畿内地方を中心に,朝鮮半島からの渡来者の技術を利用して進められた(例えば韓人(からひと)池)。律令制が施行された8世紀には,国郡司が在地首長と協力して大規模な条里制開発を行うが,同時に開墾奨励策として,三世一身法や墾田永年私財法が施行された。国家的な開墾事業は,律令国家の衰退とともにしだいに行われなくなり,平安中期以降には,小規模だが密度の高い開墾が多くなった。中世には一般に小河川を利用した開墾が多かったが,戦国大名の出現によって大河川流域の開墾が促進された。
→新田
執筆者:吉田 孝
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「はりた」とも。未開地や荒廃地の開墾によってえた田。治田(はりた)とも書くが,墾田が大規模開発予定地をも含む(墾田地)のに対し,平安時代以降,治田は実際の耕作地をさすことが多い。律令法では,国司在任中の空閑地開発以外には墾田についての規定がないので,8世紀半ば以降の田図・田籍には班田収授制の適用をうけない,私財田のことを強調する用法もある。
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…723年(養老7)に出された墾田についての法令。日本の律令に規定された班田収授法には,墾田の取扱いについての明確な規定がなく,墾田に対する開墾者の権利もはっきりとは認められていなかった。…
※「墾田」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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