《善財童子絵》とも呼ばれるように,《華厳経》入法界品に説かれる善財童子の善知識歴参の諸場面を描いた12世紀後半の絵巻。東大寺が蔵する1巻に37図,他に藤田美術館に10図など,残欠が諸所に存する。善財童子があるとき文殊菩薩から,諸々の善知識(高僧)に会って修行の道を尋ねよとの指示を受け,順次南行して善知識を歴訪し,最後に普賢菩薩にまみえて無礙法界の大道を会得しおわったという内容で,55人の聖を訪れるところから五十五所とする。画面は山中や水辺,殿舎など変化に富んだ各聖の住いを訪ね,法を聞く可憐な童子の姿をくり返し連続的に描く。詞書のかわりに上部に色紙形を区切って,各善知識の位相,所在,名称と,宋の揚傑作の讃頌の詩句を記す。12世紀後半の東大寺を中心とする華厳宗復興の気運の中で生まれたもので,中国伝来の原本の所在が考えられるが,淡墨の軽妙な線や明るい色彩がつくり出す雅味のある画面は,日本人の感覚に合った独特の魅力がある。
執筆者:田口 栄一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
絵巻。1巻。国宝。奈良・東大寺蔵。華厳経の後半にある入法界品(にゅうほっかいぼん)の経説を図示したもので『善財童子(ぜんざいどうじ)絵巻』ともいわれる。善財童子が文殊菩薩(もんじゅぼさつ)の教えにより徳雲比丘(びく)以下53の善知識を歴訪し、ふたたび文殊菩薩に会い、文殊に導かれて普賢(ふげん)菩薩にまみえ、55人の聖(ひじり)を訪れて無礙(むげ)法界の大道を会得したという内容を説く。詞書(ことばがき)はなく、各段とも図上に線で色紙形を画して各知識の位相名、所在地名、賛文を記入している。図様は中国渡来の原典によったものと思われるが、絵は描線も軽妙、色彩も淡泊で清純な趣(おもむき)に富む。平安時代(12世紀)の作であるが、筆者は明らかでない。なお、この絵巻は一部が明治のころ切断され、断簡が東大寺ほか諸家に分蔵されている。
[村重 寧]
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…ほかに元代の《金泥華厳経見返絵》(京都国立博物館)もある。日本において善財童子は平安末になって厳島神社や東大寺の紺紙金泥華厳経の見返絵に断片的に描かれ,善財童子の歴参のみを描いたものには《華厳五十五所絵》(額装本),《華厳五十五所絵巻》(巻子本)がある。このほか《華厳海会善知識曼荼羅図》(東大寺),《華厳海会諸聖衆図》(高山寺)の2幅があり,前者は中央上部に毘盧遮那如来を置き,周囲を54区画に区切りそれぞれに善財童子歴参図を描いた華厳変相図である。…
※「華厳五十五所絵巻」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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