血栓性血小板減少性紫斑病(読み)ケッセンセイケッショウバンゲンショウセイシハンビョウ

デジタル大辞泉 の解説

けっせんせいけっしょうばんげんしょうせい‐しはんびょう〔ケツセンセイケツセウバンゲンセウセイシハンビヤウ〕【血栓性血小板減少性紫斑病】

全身細動脈毛細血管に微小な血栓が詰まることで、血小板減少症溶血性貧血・腎機能障害・発熱精神神経症状が現れる、重篤な全身性疾患。指定難病一つTTP(thrombotic thrombocytopenic purpura)。

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内科学 第10版 の解説

血栓性血小板減少性紫斑病(血小板/凝固系の疾患)

概念
 血栓性微小血管障害(thrombotic microangiopathy)をきたす疾患の1つである.虚血性臓器障害を惹起する細血管内血小板血栓多発と消費性血小板減少,そして赤血球が血小板血栓間隙を通過する際に破砕されることによる溶性貧血を3主徴とする.古典的には,①血小板減少,②溶血性貧血,③動揺性精神神経障害,④腎機能障害,⑤発熱の5症候がMoschcowitzにより提唱されている.
分類
 家族性・先天性に発症するものと,後天性に起きるものがある.後天性では,特発性のものと,薬剤や膠原病などに伴う二次性のものに大別される.
病因
 血小板の粘着・凝集反応に重要な役割を果たすvon Willebrand因子VWF)を限定分解するa disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13(ADAMTS13)の活性低下(3%以下)がその要因の1つであることが近年明らかにされた.遺伝子異常による欠乏(Upshaw-Schulman症候群)と,後天性に抗ADAMTS13 IgG型自己抗体発生による活性低下が知られている.
発生率
 以前は,きわめてまれな疾患(100万人に1人)と考えられていたが,ADAMTS13発見後,10年弱で861例を集積したなどという特定施設からの報告もある.今後の調査が望まれる.
病態生理
 血管内皮細胞で産生される分子量約20万のVWFはマルチマー構造をとり,放出直後は超巨大分子構造をとる.血小板と結合し,血小板凝集を惹起する機能部位は分子内部に折り込まれているが,血流と血液細胞により惹起される血管内ずり応力により立体構造が変化し,機能部位が表面に露出して,“活性化”される.分子が巨大であるほどずり応力による物理的影響も受けやすく,血小板粘着・凝集活性が強い.超巨大マルチマーは血小板血栓を多発し,TTPを誘導する.VWFマルチマーが血中で定常ずり応力により構造変化を容易にきたさないサイズまで,VWFのTyr1605-Met1606結合を限定分解する酵素がADAMTS13である(図14-11-8,Moake,2002).多発性血栓は血小板血栓が主であり,もろく,血流により容易に剝がれることが多い.結果,脳においても虚血レベルが変動し,神経症状にも,時間的動揺がみられる.
臨床症状
 前述した5兆候.なかでも,ある日,左片麻痺を認めたかと思うと翌日は軽快し,右片麻痺が出現するというような動揺性精神神経障害が特徴的である.血小板減少に伴う皮膚粘膜を中心とした出血傾向もみられる.
検査成績
 血小板減少.破砕赤血球を多数認める溶血性貧血.ADAMTS13活性低下と電気泳動による超巨大VWFマルチマーの証明.
診断
 臨床症状と,検査成績を参考に診断する.ときにADAMTS13活性低下のみられない例も存在する.
鑑別診断
 Evans症候群,溶血性尿毒症症候群,ヘパリン因性血小板減少症,DICなど.
経過・予後
 血漿交換療法導入以前は90%以上の例で予後不良であったが,血漿交換により80%以上の生存率が期待できる.再発例も存在する.
治療
 先天性TTPには新鮮血漿輸血.後天性TTPは血漿交換を症状・検査データ改善が得られるまで繰り返す.補助療法としての抗血小板薬投与や,原因是正のためのステロイド療法なども行われる。難治性のものにはリツキシマブ使用(保険適用外)も検討される.
禁忌
 血栓材料となる血小板輸注は禁忌である.[坂田洋一]
■文献
Moake JL: Thrombotic microangiopathies. New Engl J Med, 347: 589-600, 2002.

血栓性血小板減少性紫斑病(血液疾患に伴う神経系障害)

(7)血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic throm­bocytopenic purpura:TTP)
 TTPは血小板減少,溶血性貧血に神経症状を伴う疾患である.脳では多発性小梗塞がみられ,脳出血,くも膜下出血はまれである.脳に広汎に小梗塞が起こるため,意識障害や器質的精神症状などが多いが,局所神経徴候がみられることもある.このような神経症状が変動することがTTPの特徴でもある.髄液所見は正常のことが多いが,MRI多発性脳梗塞が認められる.[有村公良]

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家庭医学館 の解説

けっせんせいけっしょうばんげんしょうせいしはんびょうてぃーてぃーぴー【血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)】

[どんな病気か]
 全身の細血管、毛細血管(もうさいけっかん)の内側でなんらかの異常がおこり、ここに血栓(けっせん)(血のかたまり)ができます。
 この血栓の形成に血小板が多量に消費されて、血小板が減少しておこるまれな病気です。
 英語の病名(Thrombotic Thrombocytopenic Purpura)の頭文字をとって、TTPともいいます。
[原因]
 原因は、よくわかっていません。なんらかの血小板を固める因子が現われる、血小板が必要もなく固まるのを防いでいる因子が不足する、なんらかの免疫(めんえき)の異常がおこる、などといったことが原因ではないかと考えられています。
[症状]
 紫斑病に共通の、皮下ひか)や粘膜(ねんまく)からの出血、内臓からの出血といった症状だけではなく、細血管や毛細血管に血栓ができる際に、赤血球(せっけっきゅう)が血栓に衝突して、変形したり壊れたりして、溶血性貧血(ようけつせいひんけつ)(「溶血性貧血」)がおこります。また、からだ中に血栓ができるため、血行が途絶える部分が生じ、その部位によって、けいれんや知覚障害などの精神・神経障害、腎臓(じんぞう)の障害、発熱などがおこります。
 急速に悪化し、死亡することの多いおそろしい病気です。
 こうしたことから、播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)(「播種性血管内凝固症候群(DIC)」)と関係があるのではないかともいわれています。また、全身性(ぜんしんせい)エリテマトーデス(「全身性エリテマトーデス(SLE/紅斑性狼瘡)」)にともなっておこる場合や、薬剤の使用がきっかけでおこる場合もあります。
 また幼児に多くみられる溶血性尿毒症症候群(HUS)は、大部分は腸管出血性大腸菌O(オー)-157H7の感染が原因でおこりますが、症状が共通しており、同一の症候群であると考えられ、TTP/HUS症候群とも呼ばれます。
[治療]
 まず考えられるのは、血漿交換療法(けっしょうこうかんりょうほう)です。血漿交換療法は、体外に血液を導き、特殊な膜を通すことで、正常な血液成分はそのままとして、障害がある血液成分を、健康な人の血液成分と交換する治療法です。
 これは、血栓性血小板減少性紫斑病には、きわめて有効な治療法です。
 しかし、血漿交換をせず、たんに健康な血漿を注射するだけでも軽快することがあります。また、血栓の形成をふせぐ抗血小板薬(ジピリダモールなど)やアスピリンを使用する治療も効果的です。これと合わせて、ステロイド(副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン)を使用することもあります。
 抗体の一種である免疫グロブリンG(IgG)の大量の点滴、アルカロイドの一種であるビンクリスチンの使用なども試みられています。
 腎不全が進行したHUSの患者さんでは、血液透析も行なわれます。
 こうした治療法の進歩によって、現在では、患者さんの約80%は救命されるようになっています。

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