翻訳|phenotype
生物の外に現れた形質をいう。遺伝子の組合せを示す遺伝子型genotypeに対応する語。デンマークのヨハンセンによって名づけられた(1909)。生物のもつ形質には、形態的なもののほか、生理的機能や生化学的な性質、さらには行動や精神活動なども含まれるが、これらは、その生物がもつ遺伝子型によって支配されると同時に、遺伝子の優劣関係や環境の影響によって大きく変化する。表現型の発現は、細胞核内の遺伝子DNAに蓄えられた遺伝情報が伝令RNA(メッセンジャーRNA)に転写され、細胞質内のリボゾーム上でタンパク質に翻訳されることによって行われる。この過程の種々の段階で遺伝子の発現は調節や抑制を受ける。
メンデルの行った交配実験で、エンドウの種子の表面が滑らかで丸いものと、シワがよって角ばっているものとを交配すると、雑種第一代ではすべて表面が滑らかで丸いもののみが生じ、シワがよって角ばったものは現れなかった。このような雑種第一代で現れる形質を顕性といい、現れない形質を潜性という。相同染色体を2本ずつもつ二倍体の高等動植物では、同一座位の同じ遺伝子が相同染色体上に1個ずつ合計2個存在し、雑種第一代では、両親から1個ずつ受け継いだ遺伝子が、顕性、潜性のヘテロの組合せになったとき、表現型は顕性の遺伝子の形質のみが現れる。
ヒトのABO式血液型で、表現型がA型のヒトのなかにも遺伝子型はAAのヒトとAOのヒトがあり、表現型がB型のヒトのなかにも遺伝子型がBBのヒトとBOのヒトがあるのはよく知られている。
[黒田行昭]
『駒井卓著『人類の遺伝学』(1966・培風館)』▽『木村資生著『分子進化の中立説』(1986・紀伊國屋書店)』▽『D・L・ハートル著、向井輝美・石和貞男訳『集団遺伝学入門』(1987・培風館)』▽『相沢慎一著『ジーンターゲティング――ES細胞を用いた変異マウスの作製』(1995・羊土社)』▽『黒田行昭編著『21世紀への遺伝学1 基礎遺伝学』(1995・裳華房)』▽『ジョン・メイナード・スミス著、巌佐庸・原田祐子訳『進化遺伝学』(1995・産業図書)』▽『藤尾芳久・谷口順彦編『水産育種に関わる形質の発現と評価』(1998・恒星社厚生閣)』▽『井出利憲著『分子生物学講義中継(Part1)――教科書だけじゃ足りない絶対必要な生物学的背景から最新の分子生物学まで学べる名物講義』(2002・羊土社)』▽『金子邦彦著『生命とは何か――複雑系生命論序説』(2003・東京大学出版会)』
生物のもつ遺伝的特徴はその生物固有の遺伝子型によって規定されるが,それが形,色,大きさ,機能といった表面から観察できる形質として現れたものを表現型という。本来は表現型という語は生物1個体のもつすべての形質の総和に対して用いられるものであるが,特定の形質についてのみ用いることもある。遺伝子型から表現型が発現するまでの過程には各種の遺伝的調節機構が働いており,発現の時期や個体における発現の場所が規定される。また遺伝子の種類によってはその発現が環境条件の影響を受けるものもあり,誘導酵素の産生はその例である。したがって表現型が類似しても遺伝子型が同じとは限らず,逆に表現型が違っても遺伝子型が異なるとは限らない。とくに遺伝子の形質発現の過程で遺伝子そのものは変化しないが,環境の変化によって別の遺伝子型の表現型と相似な形質が発現される場合を表型模写という。
執筆者:阪本 寧男
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…常染色体や性染色体上の遺伝子とその支配形質はメンデルの法則に従い遺伝する。
[表現型と遺伝子型]
接合体や配偶子の遺伝子構成を遺伝子型という。これに対し,接合体の表に現れる形質を表現型とよぶ。…
※「表現型」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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