神仏の護符を入れて身につける守袋。通常,筒形の容器の外側を錦の裂(きれ)でつつみ,その両端に紐をつけて胸前に下がるように作る。魔よけや災厄よけのため,神聖なものや神秘的な威力のあるものを身につける習慣は世界的に広く行われている。とくにこれを首にかけるという形式は,他の場所につけるよりもいっそうそのものを尊び,これに対する強い信頼の心を表していると考えられる。護符以外のものでも,とくに貴重なものや丁重に取り扱う必要のあるものを持ち運ぶとき,たとえば貴重な書類や遺骨などは日本では古くから首にかけて歩く習慣があった。懸守は加持祈禱などが盛んに行われ,神仏の護符などがとくに尊重されはじめた平安中期ころから女性が外出時に多く用い,初めはただ袋の両端をしぼった紐を首にかけるようなものであったが,しだいに装身具のようになった。現在大阪の四天王寺に蔵されている国宝の七つの懸守は,平安時代末ころのものと思われるが,種々の形の木の心に錦を張り,これに金銀の飾りをつけた美しいものである。江戸時代にはいって女性の服装が簡単になってくると,首から下げるというおおぎょうな形式はしだいにすたれて,護符は通常腰さげや腕守,あるいは紙入れや筥迫(はこせこ)の中などに納めて,身につけるようになった。なお婚礼のとき嫁の襟に守をかける習俗があり,これを愛敬守(あいきようまもり)といっている。古くはつねにこれを護符として胸にかけ,夫婦愛敬の守とした。
→御守 →護符
執筆者:山辺 知行
中国にも懸守は古くからあって,首,胸,背あるいは腰,腕などにつけた。端午に色糸をひじにかけて,流行病などを避けたことは後漢の《風俗通》に見え,のちに長命縷(ちようめいる)・続命縷(ぞくめいる)などといわれた。兵難よけの護符としてこの日に用いられた赤霊符(せきれいふ)は道教的なものである。近世もホウルホウアル(葫蘆花児)と称してオウトウ(桜桃),桑の実,ひょうたん,小虎(とら)などを子どもの襟首や背中に結ぶ風が行われている。子どもが生後1ヵ月目に贈られる錠前(じようまえ)つきの首飾は各地で見られるが,鍵をしてこの世に閉じこめておくという魔よけで,同種のものに,へその緒を入れた首巻,あるいは枡(ます),鈴,印形などを手首にさげて豊年や権威を願うことも行われている。辟邪銭(へきじやせん),烏金(うきん)の破片を入れた袋,腰につけるホパオ(荷包),腕輪,足飾などにも守の意味がある。なお,中国東北や華北で発見される青銅製の小さな童児像も,遼・金時代に行われた懸守の一種と解されている。
執筆者:小野 勝年
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神仏の御札(おふだ)などを首からかけて身の御守りとする。その守り袋をいう。キリスト教では十字架や聖像などを首にかけている風はよくみられるが、わが国では神社仏閣で出している御札がおもなもので、身の安全を守るため、安産のため、災厄を免れるためなど目的はいろいろあった。一例として、女性がもっていた懸守の例をあげてみよう。国内に仏教が行き渡って、女性の月水を穢(けがれ)と称して非常に忌み嫌う思想があった。その結果として女性にもまた周囲の人々にもさまざまなタブーができて、日常の生活が複雑になるにしたがってそのタブーが煩わしくなってくる。こんな際に寺社はその宗教を背景としてタブーの解説をし、その解決法として月水除(よ)けの御札を発行し、それさえ身につけていれば、従来タブーとされていた行為を免れると説いた。つまり、火をたいても、水をくんでも差し支えないというのである。女性はそれで解放されるのだから、進んで御守りを受け、小さな袋に入れて身の守りとして首にかけていた。寺院から出るものには血盆経(けつぼんきょう)などが印刷されていたので、安産の御守りを兼ねているものが多かったようである。この風習は明治時代に入ってからも続いていた。
[丸山久子]
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…災難を逃れるために身につけるもの。社寺で出す護符,御札等を守袋等に入れた懸守(かけまもり)と子どもの産着(うぶぎ)の背中に色糸の縫飾をする背守(せまもり)がある。懸守の遺品には四天王寺の平安時代のものがある。…
…女性ではことに懐紙をたたんだ畳紙(たとうがみ)や扇が装身具を兼ねた重要な必需品であった。このほか女性の外出・旅行に懸守(かけまもり)を首から下げることが流行した。神仏の護符を筒形の器に入れたもので,錦で包み金銀の飾も施された。…
※「懸守」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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