改訂新版 世界大百科事典 「複合金属材料」の意味・わかりやすい解説
複合金属材料 (ふくごうきんぞくざいりょう)
金属と他の金属あるいは化合物を合体させた金属系複合材料。複合の目的と合体の方法によって種々のものがあるが,おもなものに高強度と靱性(じんせい)を兼ねそなえ,さらに目的の形状に成形できるもの,とくに高温強度を目的とするものなどがあり,また強度以外の複合した機能を目的としたものもある。分散強化型合金dispersion strengthened alloyは,おもに高温でも強度が高く化学的に安定な酸化物の粒子を分散させることにより,高温強度を高めた合金である。SAP(sintered aluminum powder)はアルミニウムにアルミナAl2O3を分散させたものである。TDニッケルthoria dispersed nickelはニッケルに酸化トリウム(Ⅳ)ThO2を分散させたもので,1000℃以上になると他の耐熱ニッケル合金よりも強度が高い。繊維強化型合金fiber reinforced metal(FRM)は,一般に細線や細い繊維は強度が高いことを利用して,これを混合することによって強度を高めるものである。繊維としてはホウ素,炭化ケイ素,炭素,あるいはタングステンなどの超高強度繊維が使用される。この繊維は,軽くて,比強度(強度/密度),比弾性率(弾性率/密度)がきわめて高く,耐熱性の改善などの応用がある。宇宙航空用構造材や部品に用いられている。サーメットはセラミックスと金属の複合材料である。切削工具などとして重要な超硬合金,たとえばタングステンカーバイドはきわめて硬いがもろく,そこでコバルトと組み合わせることにより,強度と靱性を兼ねそなえたものとして使用している。
以上の例にみられるように,複合材料は性質に大差のあるものを混合合体することから,それぞれについて製造法のくふうが必要となる。広く使用されている方法は素材を粉末,箔,繊維などにしておき,これを混合した後,加圧成形し,焼結するものである。また,金属材料は一般に内部の組織を制御して目的とする性質をもたせている。たとえば普通鋼の組織は軟らかいフェライトと硬いセメンタイト(Fe3C)の混合組織であり,これが鋼の強度と靱性の基礎になっている。溶解,塑性加工,熱処理と組み合わせて組織を制御し目的とする複合組織をつくりだして性質を改善している例はすでに多いが,このような方法による新しい材料の開発も進むであろう。2枚の板を合わせて圧延するなどの方法ではり合わせる合せ材cladも複合材料の一種で,バイメタル,表面に耐食合金をはった耐食材料などがある。
執筆者:大久保 忠恒
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報