耐食合金(読み)タイショクゴウキン(英語表記)corrosion-resistant alloy

デジタル大辞泉 「耐食合金」の意味・読み・例文・類語

たいしょく‐ごうきん〔‐ガフキン〕【耐食合金】

酸、アルカリ、水、海水などによる腐食を受けにくい合金の総称。ステンレスをはじめとする鉄合金、アルミニウム合金、銅合金ニッケル合金、チタン合金などが知られる。

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改訂新版 世界大百科事典 「耐食合金」の意味・わかりやすい解説

耐食合金 (たいしょくごうきん)
corrosion-resistant alloy

腐食性環境のもとで使用に耐える合金で,鉄系合金,ニッケル系合金,銅系合金,アルミニウム系合金,その他がある。腐食という現象は材料と環境との相互作用であるので,環境条件が指定されて初めて適切な耐食合金の選択が可能になる。ある環境で耐食的であっても別の環境では耐食性を失うことはよくあることで,耐食合金も使い方には注意が必要である。一般には耐食性の目安を1年に0.1mm以下の平均侵食率としている。現実には全面腐食よりも孔食,すきま腐食,液線腐食,応力腐食割れ腐食疲労といった局部腐食が問題となる。これらを材料のみにたよって防止することは経済的に不可能なことが多く,防食を考慮した構造設計,他の防食手段との併用などを前提に耐食材料の選定を行う必要がある。高温の腐食環境に対する耐食合金は一般に耐熱合金に含めるので,ここでは湿食に対する耐食合金について述べる。

鉄系耐食合金としては低合金鋼,ステンレス鋼,耐食鋳鉄,アモルファス材料などがある。低合金鋼は腐食を止めることはできないが,少量の添加元素によってさび生成の機構が変化することによって耐食性を獲得する。例としては耐候鋼(Cu-P-Cr鋼,Cu-Cr鋼),耐海水鋼(Cu-Ni-Mn鋼,Si-Mn-Cr鋼),耐硫酸鋼(Cu-Cr-Sb鋼)などがある。ステンレス鋼(高Cr鋼,高Cr-Ni鋼,高Cr-Ni-Mo鋼)は現在の耐食合金の主流をなすものであり,用途に応じた鋼種が数多く開発されている。耐食鋳鉄としては高ケイ素鋳鉄(商品名ジュリロン,ジュリクロールなど),ニッケル鋳鉄(商品名ニレジスト)などがある。近年話題のアモルファス合金非晶質金属)のなかでは塩酸に対して優れた耐食性を示すものとしてFe72Cr8P13C7合金,Fe45Cr25Mo10P13C7合金などがある。

ニッケルは非酸化性の酸に強い。耐アルカリ性および非酸化性での耐塩化物性に強い特徴を強化したものにNi-Cu合金(モネルメタル),Ni-Mo合金(商品名ハステロイB)などがある。酸化性酸での耐食性をクロムによって改善したものとしては,Ni-Cr合金(商品名インコネル),Ni-Cr-Mo合金(商品名イリウムG)などが知られている。

銅合金は海水中での耐食性に優れており,船舶用プロペラなどに青銅鋳物,海水を使った復水器冷却管にはCu-Zn-Al合金(アルミニウム黄銅。Cu76%,Al2.5%,Zn21.5%),Cu-Ni合金(キュプロニッケル)などが使われる。屋内の給湯配管には純銅管が使われる。

アルミニウムは表面に強固な酸化物皮膜を作るので一般によい耐食材料であるが,アルカリ性溶液では侵食される。アルミニウム合金は高力合金と耐食合金の二つに分けられる。耐食合金では純Al,Al-Mn,Al-Mn-Mg,Al-Mg-Siの順に強度は大きくなるが耐食性は悪くなる。建材などでは陽極酸化と併用できる利点がある。

耐食材料として需要が伸びてきている材料にチタンTi,ジルコニウムZr,タンタルTaとその合金がある。いずれも化学工業用材料として利用される。チタンは酸化性環境での耐食性はよいが非酸化性酸の中ではすきま腐食を起こす危険があり,この場合はTi-Pd合金もしくはPdを被覆したTi材料などが使われる。Zrは塩化物のある環境ではTiとは逆に還元性で耐食性が大である。Taは酸化性,還元性を問わずに使用できる。鉛Pbは古くから用いられてきた化学薬品用耐食材料であり,現在でも硫酸を扱う工業などでは利用されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「耐食合金」の意味・わかりやすい解説

耐食合金
たいしょくごうきん
corrosion-resistant alloy

腐食環境中での使用に耐える合金材料。耐食合金であるか否かの判定のための規準としては、侵食度が0.05ミリメートル/年以下のものを完全耐食、0.05~1.00ミリメートル/年のものを耐食性あり、1.00ミリメートル/年以上のものを耐食性なしとすることが多く、完全耐食または耐食性ありの部類に入るものが耐食合金とよばれている。耐食合金としては鉄合金、ニッケル合金、銅合金、アルミニウム合金、チタン合金などがある。

[杉本克久]

鉄合金

クロムを12%以上含む鉄‐クロムおよび鉄‐クロム‐ニッケル合金はステンレス鋼とよばれ、耐食合金のなかでもっとも使用量が多い。そのほか、低合金耐食鋼として大気腐食抵抗性の大きい耐候性鋼、海水飛沫(ひまつ)帯で優れた耐食性を示す耐海水鋼、燃焼ガス中の硫黄(いおう)に起因する硫酸露点腐食に強い耐露点腐食鋼などがある。また、耐酸鋳鉄として、ケイ素を15%含むデュリロン、ニッケルを15~30%含むニレジストなども使われている。

[杉本克久]

ニッケル合金

還元性酸およびアルカリ中における耐食性が大きいこと、塩化物応力腐食割れに対して強いことなどが特色である。ニッケル‐銅合金のモネル、ニッケル‐クロム‐鉄合金のインコネル、ニッケル‐モリブデン合金のハステロイなどが有名である。

[杉本克久]

銅合金

大気や天然水に対する耐食性に優れ、さらに流動海水にもよく耐えることが特色である。銅‐亜鉛‐アルミニウム合金のアルミニウム黄銅、銅‐ニッケル合金のキュプロニッケル、銅‐スズ合金のスズ青銅、銅‐アルミニウム合金のアルミニウム青銅などがよく知られている。

[杉本克久]

アルミニウム合金

中性の水溶液に対しては良好な耐食性を示すが、酸およびアルカリに対する耐食性は乏しい。アルミニウム‐マグネシウム合金、アルミニウム‐マンガン合金などが耐食合金として知られ、これらは海水に対しても良好な耐食性をもっている。

[杉本克久]

チタン合金

純チタンでも多くの酸や塩化物によく耐えるが、さらに還元性酸に対する耐食性を高めたチタン‐モリブデン合金、自己不動態化性を高めたチタン‐パラジウム合金、高温高濃度硝酸中での耐食性を高めたチタン‐タンタル合金などがある。

[杉本克久]

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百科事典マイペディア 「耐食合金」の意味・わかりやすい解説

耐食合金【たいしょくごうきん】

海水や酸・アルカリなど腐食性環境での使用に耐える合金。船用などでは銅合金を使うが,化学工業用など高度の耐食性を要するときはステンレス鋼や,モネルメタルハステロイなどのニッケル合金および鉛合金の硬鉛チタン合金などを使用。
→関連項目防食

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「耐食合金」の意味・わかりやすい解説

耐食合金
たいしょくごうきん
corrosion-resistant alloy

通電やメッキなど特別の措置なしで耐食性を発揮しうる合金。対自然現象,対薬品,原子炉材などに利用される。広く実用化されている耐食合金には,鉄と 12%以上のクロムとの合金であるステンレス鋼,銅および銅合金,アルミニウム合金,工業用純チタンなどがある。これらの構成元素 (Cr,Al,Ti) は,貴金属と呼ばれる金や白金のように,一般に腐食しない (熱力学的に安定である) ものとは本質的に異なる。すなわち,裸金属の状態ではむしろ高い活性を示す (腐食しやすい) が,それゆえに環境中の水分とよく反応して下地保護性にすぐれる表面皮膜 (不動態皮膜など) を形成し,以後の腐食速度を低く保つ型のものである。これら表面皮膜の環境条件 (酸化性,pH,Cl- など各種化学種,温度など) ,材料への負荷応力に対する応答安定性は合金ごとに異なるので,その耐食性は金属・合金のみの属性ではなく環境条件に強く依存する。適材を適所に使う材料選定が重要である。

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