日本映画。溝口健二(みぞぐちけんじ)監督の1952年(昭和27)公開の新東宝作品である。原作は江戸時代の井原西鶴(さいかく)の小説『好色一代女』で、性への執着から逃れられない女が、さまざまな形の売春を経験したあげく、尼になって自分の人生をおもしろおかしく懺悔(ざんげ)するというものである。溝口はこれを戦後の民主化の時代にふさわしく、女性を売春に追い込む封建社会の男たちを批判するという内容に変えた。脚本は依田義賢(よだよしかた)が書き、田中絹代が、貴族の召使いから大名の側室、島原の太夫(たゆう)、そして夜鷹(よたか)(街娼(がいしょう))にまで至る女の一生を演じた。美しく重厚で、悲劇性も喜劇性も含んだ大作である。ベネチア国際映画祭で銀獅子(じし)賞を受賞。1953年の『雨月物語(うげつものがたり)』、1954年の『山椒大夫(さんしょうだゆう)』と3年連続の銀獅子賞で、一躍溝口は世界の巨匠に列することになった。そして溝口独特のワン・シーン=ワン・ショットとよばれる長回しの手法は、当時のヨーロッパの若い映画作家たちに強い影響を与え、やがてヨーロッパ映画に長回しの流行さえ生じさせることとなった。
[佐藤忠男]