鎌倉時代の禅僧で,臨済宗法灯(ほつとう)派の祖。号は無本,房号は心地房。信濃の人。1235年(嘉禎1)東大寺にて受戒,高野山金剛三昧院の退耕行勇について葉上流の台密禅を学んだ。のち行勇に従って鎌倉寿福寺に赴き,さらに道元,栄朝,蔵叟朗誉,天祐思順など各地の禅僧を歴参した。49年(建長1)入宋,径山(きんざん)の癡絶道冲(ちぜつどうちゆう)に参じ,ついで杭州護国寺の無門慧開(えかい)の会下に投じて得法,54年帰国した。58年(正嘉2)紀州由良荘(和歌山県由良町)の西方寺(のちの興国寺)に招かれ,これを禅寺に改めて開山となったが,多くの禅徒が風をしたって参集した。覚心は亀山上皇,花山院師継など,皇室・公家の帰依を受け,しばしば宮中に参内して禅法を説くことがあったが,韜晦(とうかい)主義を守り,長く在京しなかった。彼の門派は法灯派といわれ,孤峰覚明,高山慈照など名禅僧を輩出したが,いずれも密教色の強い禅を説き,また中央権力に接近しなかった。覚心は普化宗の招来者とも伝えられる。法灯円明国師と諡(おくりな)された。
執筆者:藤岡 大拙
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…密厳院は新義真言宗の開祖,覚鑁(かくばん)(興教大師)の念仏堂であったが,そのまわりに念仏の高野聖(ひじり)があつまり,その中心に萱堂(かやんどう)ができて萱堂聖と称せられた。鎌倉時代中期にこの萱堂聖の中心となった人物は,臨済宗興国寺派の祖心地覚心(法灯国師)であった。この一派は唱導を得意とし,なかでも苅萱物語の懺悔発心談をレパートリーにしたので,萱堂は苅萱堂とよばれるようになった。…
…〈金山寺みそは紀州若山金山寺の名物にて,江戸に流行出しは享保年中よりとなむ〉と《嬉遊笑覧》は書いているが,和歌山に金山寺という寺はなかったようである。もともと中国浙江省の径山寺でつくっていたみそが名高く,その製法を法灯国師覚心が伝えて1254年に帰朝,請われて紀州由良の興国寺の開山となったため,その近傍の湯浅に伝わって同地の名産になったとされている。紀州家の徳川吉宗が将軍になってから献上させ,それから江戸に広まったというから,〈享保年中より……〉というのは妥当かもしれない。…
…山号は鷲峰山。前身は1227年(安貞1)葛山願性(くずやまがんしよう)の創建した西方寺であるが,58年(正嘉2)高野山禅定院住持であった無本覚心が招かれ,禅寺にあらためて開山初祖となった。覚心の風をしたう僧衆が雲集し,孤峰覚明(こほうかくみよう),高山慈照など多くの禅傑が輩出し,いわゆる法灯派の中心道場として繁栄した。…
…蓮華谷聖は遁世と道心をもって知られ,明遍僧都(少納言信西の子)を偶像とした。萱堂聖は法灯国師(臨済宗法灯派の派祖,心地覚心)によって結ばれ,唱導説経を特色とした。千手院聖は遊行聖一遍を祖として勧進にすぐれ,その経済力によって室町時代の高野聖はほとんど時宗化された。…
…その伝説的起源は次のとおり。中国から日本へ普化尺八を伝来した覚心は,門弟寄竹(のちの京都明暗寺の祖虚竹禅師)に《虚鈴(霊)(きよれい)》を伝授し,寄竹はそれを吹いて行脚中,伊勢朝熊山の虚空蔵堂に参籠し,通夜仮眠中に霊夢を見る。すなわち,みずからは水上の孤舟にあり,あたりは深い霧に閉ざされ,天空から妙音が聞こえる。…
…《三十二番職人歌合》は,尺八を吹いて門戸にたち托鉢(たくはつ)することをもっぱらの業としたとする。普化宗は,中国唐代の鎮州普化を祖とし,日本には無本覚心(むほんかくしん)(法灯国師(ほつとうこくし))が伝えた。覚心は,1249年(建長1)入宋し杭州(浙江省)霊洞護国寺の無門慧開に参じたが,そこで普化和尚の法流にある張参と親交し,竹管吹簫の秘奥を稟(う)け1254年の帰朝時に張参の徒宝伏(法普)ら4居士(こじ)を伴い,開創寺の興国寺(和歌山県由良)に普化庵を設けた。…
…ただ14世紀ごろに5孔の尺八の祖型が存在したことは確かで,それがのちに一節切尺八,普化尺八などに分化したものらしい。普化宗の所伝では,尺八の起源が中国唐代の奇僧普化禅師と関連づけられ,日本へは鎌倉時代の禅僧覚心(かくしん)が伝来したとされるが,傍証がないので史実とはみなし難い。普化宗と普化尺八の存在が確認できるのは17世紀からである。…
…日本には1254年(建長6)宝伏,国佐,理正,僧恕の4人の居士(こじ)が来日して伝えられた。4居士は普化の一系に属する張参の徒で,1249年入宋した無本(心地)覚心(法灯国師)が帰朝のとき伴ったもので,紀伊由良の興国寺山内に普化庵を建て居所とした。そのご無本覚心の法孫にあたる靳全(きんぜん)(金先)がでて北条経時の帰依を受け,下総小金に一月寺を開創し,一派の道場が成立している。…
※「覚心」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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