誘導加熱(読み)ユウドウカネツ(その他表記)induction heating

デジタル大辞泉 「誘導加熱」の意味・読み・例文・類語

ゆうどう‐かねつ〔イウダウ‐〕【誘導加熱】

導体交流磁場を加えると電磁誘導によって渦電流が流れ、導体の電気抵抗によって発熱ジュール熱)する現象。調理器などに応用電磁誘導加熱IH(induction heating)。→IH調理器

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精選版 日本国語大辞典 「誘導加熱」の意味・読み・例文・類語

ゆうどう‐かねつイウダウ‥【誘導加熱】

  1. 〘 名詞 〙 加熱される物が導体の場合、電磁誘導によって被加熱物に渦電流を生じさせ、発生するジュール熱によって加熱する方法。

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改訂新版 世界大百科事典 「誘導加熱」の意味・わかりやすい解説

誘導加熱 (ゆうどうかねつ)
induction heating

交流の作る磁界内に導電性の被熱物を置くと,電磁誘導により導体中に電圧が誘起され電流が流れる。この渦電流によるジュール熱(被熱物が磁性体の場合,磁気ヒステリシスに基づく損失電力による発熱が加わる)によって,被熱物が加熱される。多量の不定形金属被熱物などを溶解する目的には,交流を流す水冷コイルを巻いたるつぼなどからなる炉構成とする。これを誘導炉という。これには精密鋳造用の真空溶解炉もある。誘導炉は一般に大型で,電気容量標準規格2400kW級のものも多用される。定形被熱物(ビレットなど)の加熱,歯車,鋼管などの熱処理や熱加工,定形小型容器内の溶融(半導体材料など)などに向けては水冷された加熱コイルを設け,被熱物をその中あるいは近傍に,置いたり連続通過させる構成とし,誘導加熱装置と呼ぶ。これには特殊な小型のものが多いが,鉄鋼業向けには1万kW級のものも見られる。磁界を作る交流として,商用周波(日本では50あるいは60Hz)電源を直接利用する低周波誘導加熱と,数百Hz~数百kHz~数MHzの高周波電源を設ける高周波誘導加熱とに区別する。後者の電源として在来は電動発電機,真空管発振器などが使用されたが,パワーエレクトロニクスの進歩に伴い,効率も信頼度も高く,小型,取扱容易,寿命半永久的,コスト小のサイリスターインバーターなどの半導体装置がとって代わりつつある。被熱物の発熱状態は,その導電率透磁率および周波数に支配される表皮効果に大きく依存し,さらに被熱物および加熱コイルの形状,配置などにより著しく変化する。使用目的に応じ上記変動要因を巧みに使い分け,表面焼入れや局部加熱などを可能とする。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「誘導加熱」の意味・わかりやすい解説

誘導加熱
ゆうどうかねつ

電磁誘導によって電気エネルギーを熱エネルギーに変換し、加熱する方法。原理的には、変圧器の二次コイルのかわりに被加熱材料を用い、電磁誘導により誘導された二次電流が被加熱材料を流れる場合に発生するジュール熱を利用する。被加熱材料は金属、カーボン(炭素)などの導電体とか、シリコン(ケイ素)、ゲルマニウム、ヒ化ガリウム(ガリウムヒ素)、溶融シリカなどの半導体が対象となる。非導体の場合は導電体の容器内に被加熱材料を入れて加熱する間接誘導加熱が用いられ、化学反応炉などに応用されている。

 誘導加熱が工業に利用されるようになった20世紀の初めには、金属の溶解、焼入れが主であったが、最近では製鉄ラインなどで熱処理を行う目的にも利用され、省エネルギーの観点から、重油、ガスなどの燃焼炉も誘導加熱を用いるものが現れている。誘導加熱を用いた炉には、貴金属、鉄、銅、黄銅、アルミニウムなどの溶融に利用するるつぼ型炉と、金属の溶湯を目的とした溝型溶解炉がある。前者には目的に応じて低周波から高周波までの広い範囲の周波数が選ばれ、最大10メガワットで60トンを処理できるものもある。後者には銅、亜鉛などを対象に、商用周波数を用い数千キロワットで200トンの処理能力のあるものまでつくられており、溶湯が均一に加熱できる利点がある。このほか熱処理用加熱装置、焼入れ機、溶接機、ろう付け装置、ゲルマニウム、シリコンなどの半導体のゾーンメルティング(帯域溶融)装置、化学反応炉、石英加工装置などが用いられている。

 誘導加熱は被加熱材料が直接加熱されるので加熱効率が高く、きわめて高い温度まで加熱でき、急速加熱が可能である。また、燃料を使わない間接加熱法なので、非接触の加熱や局所加熱もできる。さらに溶解炉では溶湯が攪拌(かくはん)されるので、均一性が高く、温度制御も容易に迅速に行えるなどの長所がある。ただし、被加熱材料により周波数が決まるので、装置が高価になり、被加熱物体が大きかったり、複雑な場合は、均一な加熱が困難で、一般にエネルギーコストが高いなどの欠点がある。

[岩田倫典]


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百科事典マイペディア 「誘導加熱」の意味・わかりやすい解説

誘導加熱【ゆうどうかねつ】

一般に高周波誘導加熱をいう。高周波磁場(数kHz程度まで)中で導電性物体が渦(うず)電流によって発熱する現象を利用したもの。周波数が高くなると表皮効果により表面が発熱するので,鋼の表面焼入れに利用される。その他金属のろう付,鍛造,焼なまし等に用い,ゲルマニウム,シリコンなど半導体材料の精製に利用。
→関連項目高周波加熱高周波誘導炉電熱

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「誘導加熱」の意味・わかりやすい解説

誘導加熱
ゆうどうかねつ
induction heating

支流の電磁誘導を利用して導電体 (金属) を加熱すること。2つの方法に大別される。 (1) 低周波誘導加熱 通常の 50~60Hzの交流変圧器で一次側電流と二次側電流が巻線数に反比例することを利用する。一次側を多回巻き,二次側を1回巻きとすれば,二次側には大電流が流れ,そのジュール熱で加熱される。金属材料の溶解などに用いられる (→低周波誘導炉 ) 。 (2) 高周波誘導加熱 数 kHz~数百 kHzの高周波電流を流せば,渦電流のジュール熱によりコイル中心に置いた物体が加熱される。高周波誘導炉による金属の溶解,また高周波の表皮効果を利用した高周波焼入れに用いられる。

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世界大百科事典(旧版)内の誘導加熱の言及

【電気加熱】より

…アーク加熱で,被熱物中をアーク電流が流れるものを直接アーク加熱,流れぬものを間接アーク加熱と区別する。(3)交流の電磁誘導によって生ずる被熱導体中の渦電流損(ヒステリシス損も)による発熱を利用する誘導加熱。(4)高周波電界中に置かれた被熱誘導体(電気の絶縁物)中の誘電損に基づく発熱による誘電加熱。…

※「誘導加熱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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