交流の作る磁界内に導電性の被熱物を置くと,電磁誘導により導体中に電圧が誘起され電流が流れる。この渦電流によるジュール熱(被熱物が磁性体の場合,磁気ヒステリシスに基づく損失電力による発熱が加わる)によって,被熱物が加熱される。多量の不定形金属被熱物などを溶解する目的には,交流を流す水冷コイルを巻いたるつぼなどからなる炉構成とする。これを誘導炉という。これには精密鋳造用の真空溶解炉もある。誘導炉は一般に大型で,電気容量標準規格2400kW級のものも多用される。定形被熱物(ビレットなど)の加熱,歯車,鋼管などの熱処理や熱加工,定形小型容器内の溶融(半導体材料など)などに向けては水冷された加熱コイルを設け,被熱物をその中あるいは近傍に,置いたり連続通過させる構成とし,誘導加熱装置と呼ぶ。これには特殊な小型のものが多いが,鉄鋼業向けには1万kW級のものも見られる。磁界を作る交流として,商用周波(日本では50あるいは60Hz)電源を直接利用する低周波誘導加熱と,数百Hz~数百kHz~数MHzの高周波電源を設ける高周波誘導加熱とに区別する。後者の電源として在来は電動発電機,真空管発振器などが使用されたが,パワーエレクトロニクスの進歩に伴い,効率も信頼度も高く,小型,取扱容易,寿命半永久的,コスト小のサイリスターインバーターなどの半導体装置がとって代わりつつある。被熱物の発熱状態は,その導電率,透磁率および周波数に支配される表皮効果に大きく依存し,さらに被熱物および加熱コイルの形状,配置などにより著しく変化する。使用目的に応じ上記変動要因を巧みに使い分け,表面焼入れや局部加熱などを可能とする。
執筆者:市川 真人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
電磁誘導によって電気エネルギーを熱エネルギーに変換し、加熱する方法。原理的には、変圧器の二次コイルのかわりに被加熱材料を用い、電磁誘導により誘導された二次電流が被加熱材料を流れる場合に発生するジュール熱を利用する。被加熱材料は金属、カーボン(炭素)などの導電体とか、シリコン(ケイ素)、ゲルマニウム、ヒ化ガリウム(ガリウムヒ素)、溶融シリカなどの半導体が対象となる。非導体の場合は導電体の容器内に被加熱材料を入れて加熱する間接誘導加熱が用いられ、化学反応炉などに応用されている。
誘導加熱が工業に利用されるようになった20世紀の初めには、金属の溶解、焼入れが主であったが、最近では製鉄ラインなどで熱処理を行う目的にも利用され、省エネルギーの観点から、重油、ガスなどの燃焼炉も誘導加熱を用いるものが現れている。誘導加熱を用いた炉には、貴金属、鉄、銅、黄銅、アルミニウムなどの溶融に利用するるつぼ型炉と、金属の溶湯を目的とした溝型溶解炉がある。前者には目的に応じて低周波から高周波までの広い範囲の周波数が選ばれ、最大10メガワットで60トンを処理できるものもある。後者には銅、亜鉛などを対象に、商用周波数を用い数千キロワットで200トンの処理能力のあるものまでつくられており、溶湯が均一に加熱できる利点がある。このほか熱処理用加熱装置、焼入れ機、溶接機、ろう付け装置、ゲルマニウム、シリコンなどの半導体のゾーンメルティング(帯域溶融)装置、化学反応炉、石英加工装置などが用いられている。
誘導加熱は被加熱材料が直接加熱されるので加熱効率が高く、きわめて高い温度まで加熱でき、急速加熱が可能である。また、燃料を使わない間接加熱法なので、非接触の加熱や局所加熱もできる。さらに溶解炉では溶湯が攪拌(かくはん)されるので、均一性が高く、温度制御も容易に迅速に行えるなどの長所がある。ただし、被加熱材料により周波数が決まるので、装置が高価になり、被加熱物体が大きかったり、複雑な場合は、均一な加熱が困難で、一般にエネルギーコストが高いなどの欠点がある。
[岩田倫典]
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…アーク加熱で,被熱物中をアーク電流が流れるものを直接アーク加熱,流れぬものを間接アーク加熱と区別する。(3)交流の電磁誘導によって生ずる被熱導体中の渦電流損(ヒステリシス損も)による発熱を利用する誘導加熱。(4)高周波電界中に置かれた被熱誘導体(電気の絶縁物)中の誘電損に基づく発熱による誘電加熱。…
※「誘導加熱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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