磁気ヒステリシス(読み)じきひすてりしす

日本大百科全書(ニッポニカ) 「磁気ヒステリシス」の意味・わかりやすい解説

磁気ヒステリシス
じきひすてりしす

磁界の大きさHを変化させるとき、それに応じて現れる強磁性物体の磁化の強さI(磁界方向に測定した磁気モーメント)は、その直前の磁化状態に支配されて非可逆的な変化をする。これを磁気履歴または磁気ヒステリシスとよび、その関係はヒステリシス曲線で表される。磁化IがOの消磁状態から磁界を増していくと、磁化は図AのOABCの経路をたどって増大し、飽和磁化Cに達する。ここまでの部分は初磁化曲線とよばれる。C点から磁界を減らすと、磁化は初磁化曲線を戻らず、CDとずれ、磁界HがゼロとなってもODの大きさの磁化が残る。これを残留磁化という。次に、逆方向に磁界をかけていくと、D→Eと変化し、E点で残留磁化はゼロとなる。このときの磁界の大きさを保磁力とよぶ。さらに磁界を増すと、マイナス方向の飽和磁化F点に達する。ふたたび磁界を図Aの右向きに増し、同様な測定でFGJCとたどっていくと、一回りの図が描ける。これがヒステリシス曲線である。もし、飽和磁化に達しない磁界で曲線を描けば、図A点線のようなヒステリシス曲線となり、留磁化、保磁力の値は一義的に決まらない。しかし飽和磁化に達したあとでの値は一定で、これらは正確には飽和残留磁化、飽和保磁力とよばれ、飽和磁化とともにヒステリシス特性を示す量として用いられる。

 この曲線を一回りすると、磁気的には同じ状態に戻るが、この間に曲線が囲む面積分の磁気エネルギーを消費し、それは熱に変わる。これをヒステリシス損失という。電源トランスが熱くなるのはおもにこの損失のためである。磁性体を交流磁界をかけて利用するこのような場合には、1秒間に周波数回、曲線を回ることになるので、できるだけこの面積の小さいことが要求される。

 強磁性体内部は磁区に分かれており、この磁区の形と向きの変化によって磁化が進むが、それが不連続的、非可逆的に変化することが、磁気ヒステリシスの現れる原因である。ヒステリシス曲線は、材質が同じでも、形状や測定方向によって異なるので、材質特性として図示するためには補正が必要である。工学的にはIよりも磁束密度Bを測ったBHヒステリシス曲線のほうが多く用いられる。保磁力の大きい材料ではIHBH曲線の差は大きいので注意しなくてはいけない(図B)。

[太田恵造]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「磁気ヒステリシス」の意味・わかりやすい解説

磁気ヒステリシス
じきヒステリシス

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