議員特権(読み)ぎいんとっけん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「議員特権」の意味・わかりやすい解説

議員特権
ぎいんとっけん

国会議員に対し、その職責を十分に遂行しうるために認められている特権。不逮捕特権、免責特権歳費などを受ける権利に分かれる。近代議会における議員特権は、身分制社会における特権身分の有していた種々の特権ではなく、議員の人権保障国会活動の自由を議院の自律性によって確保することにより、最終的には議会制民主主義の保障を目ざした制度である。

[山野一美]

不逮捕特権

国会議員が、法律の定める場合を除いて、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば会期中釈放される(憲法50条)ことをいう。逮捕権の濫用から、議員の身体と国会活動の自由を保障する制度で、古くフランス革命期の憲法にみられ、その後広くヨーロッパ諸国の憲法にも採用されている。わが国憲法は「法律の定める場合」を例外とするが、国会法では「院外における現行犯罪の場合」と「院の許諾ある場合」としている。現行犯については、犯罪事実が明白で不当逮捕のおそれがないためである。正当な理由あるときは、議院は許諾を与えなければならず、国会審議の重要性などを理由に拒否できない。

[山野一美]

免責特権

議員が、議院で行った演説討論または表決について院外で責任を問われない(憲法51条)ことをいう。議員の自由な言論や国会活動を保障することによって民主政治の内実を高める制度で、不逮捕特権と同趣旨に基づく。この場合「議院」とは、議事堂内という物理的空間ではなく、委員会、本会議などで職務上行った発言などをさし、議場外での国政調査や地方公聴会の席での発言なども含まれる。「責任」は民事刑事および行政上の法的責任で、道義的または政治的責任を意味しない。これに対して、院内での暴言は懲罰事犯の対象となる場合がある。

[山野一美]

歳費などを受ける権利

議員に認められる経済上の特権。議員の報酬は議員活動を支える経済的基礎で、憲法第49条は「両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。」と定める。議会制の初期は、議会は名誉職・無報酬の有財産者のみによって構成されたが、普通選挙制度の普及とともに報酬支給が行われるようになった。議員報酬は歳費とよばれ、一般職の国家公務員の最高額より少ない額とされる。歳費のほか議員には、退職金、JR自由乗車の特典、通信手当、旅費、滞在費、期末手当、議会雑費が認められ、また議員宿舎および事務室の提供、3人の秘書についての国費支弁などの経済的特典が認められている。

[山野一美]

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百科事典マイペディア 「議員特権」の意味・わかりやすい解説

議員特権【ぎいんとっけん】

国会議員が政府の不当な干渉から守られ,その職務を十分に果たすことができるように認められた特権。英国において王権の議会に対する圧迫を防ぐために設けられたのが始まり。日本では憲法,国会法に基づき,所属する議院の許諾がある場合または現行犯の場合を除き国会の会期中逮捕されず,院内で行った演説・討論・表決については院外で責任を問われない。地方議会の議員にはこのような特権はない。→逮捕許諾請求
→関連項目議員国会地方議会

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「議員特権」の意味・わかりやすい解説

議員特権
ぎいんとっけん

国会議員の議会内における自由な活動を保障するための特別な権利。会期中の不逮捕特権,院内での演説,討論,表決に対する院外における免責特権 (憲法 51条) などが通常,保障されている。国会の両議院の議員は,法律の定める場合を除き,国会の会期中逮捕されず,会期前に逮捕された議員も,その議院の要求があれば,会期中釈放される (憲法 50) 。議員の不当逮捕によって国会の職務遂行が妨げられるのを防止するためのものであるが,議会開催中に議員を逮捕しようとする場合,司法当局は議院に逮捕許諾請求をし,議院の許諾を受けなければならない。近年は議員による汚職摘発に際して,逮捕許諾請求を行わない在宅起訴がふえていたが,1994年3月中村喜四郎衆議院議員に対して 27年ぶりに許諾請求を提出,議決されたのに続き,95年 12月山口敏夫衆議院議員に対しても同様の措置がとられた。

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知恵蔵 「議員特権」の解説

議員特権

議員の自由な活動を保障するため憲法は不逮捕特権(50条)と議会内発言の免責特権(51条)を認めている。不逮捕特権といっても議員個人がいかなる行為をしても逮捕されないことを保証したわけではなく、会期中の不逮捕と会期前に逮捕された場合の会期中の釈放が定められている。会期中でも現行犯逮捕は例外として認められている。また議院が許諾すれば逮捕できる。逮捕許諾請求は、裁判官が令状を発する前に内閣に提出した要求書の受理後、速やかに要求書の写しを添えて内閣が国会に求める。議院運営委員会が審査して許諾を議決する。2002年の鈴木宗男議員を含め、戦後の第1回国会以降、20件の請求があり、16件を許諾、2件を拒否(残りは議員自殺1、辞職1)。国会内発言の免責特権でも、議員活動と全く関係のない行為は免責の対象にならないし、発言の政治的、倫理的責任を問うことまで否定するものではない。

(星浩 朝日新聞記者 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

世界大百科事典(旧版)内の議員特権の言及

【国会議員】より

…また,選挙の得票率と議席率がかなり異なるような選挙制度(小選挙区制はその例)も,議員の全国民代表性と適合しない。
[議員特権]
 国会議員は,その所属する議院が,国会の構成機関として十分職責を果たしうるよう,特別の権利を憲法で保障されている。その一は不逮捕特権といわれるもので,議員は,院外で現行犯罪を犯す場合を別として,国会の会期中は,その所属する議院の許諾がなければ逮捕されず,また,会期前に逮捕された議員は,その所属する議院の要求があれば,会期中釈放されなければならないことになっている(日本国憲法50条,国会法33条)。…

※「議員特権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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