豪族屋敷村(読み)ごうぞくやしきむら

改訂新版 世界大百科事典 「豪族屋敷村」の意味・わかりやすい解説

豪族屋敷村 (ごうぞくやしきむら)

日本の中世において,豪族の居館を核として,その周辺に隷属民や農民を配置し,この集落の周囲を濠,土塁,石垣,屋敷林などで囲繞した形態の村。城郭を近辺の山上に構築している場合もみられる。形態上,構造上からみて,防御的性格は濃厚である。したがって立地的環境からみると,前面に低湿地や沖積平地を望む段丘崖付近や小丘陵上,あるいは台地末端部に多く位置し,付近には一族やその隷属民によって開拓された耕地が存在する。この集落に関連する地名として東日本に多く分布するものは,館(たて),堀の内,根小屋,根古屋要害箕輪(みのわ),屋敷,城,屋形土手,陣屋,から堀,城山などがある。全国的にはその他に土居,山下(さんげ),殿町,拵(かこい),寄居,構(かまえ)などの地名もみられる。豪族屋敷村の関連地名の分布は東日本にその密度は高い。なお,東北地方の米沢盆地には在家という地名で,屋敷林と館堀(たてぼり)で囲繞された散居的小村が分布する。この起源は室町期以前の在家の居住地であったことが追究され,かかる在家的・豪族屋敷的散村は東北地方の歴史的フロンティアにおける中世的集落を解明するのに重要である。一般に豪族屋敷村の平面形態は四辺形あるいはその変形であり,その面積は数反から1町前後に及ぶものが多い。その内部には居住家屋,納屋土蔵,馬小屋などの建築物を配置し,なかには隷属民の住宅や菜園などまで擁するものもある。この屋敷村周辺には農民の小規模な家屋が集村状に密集し,門田,門畠,正作,佃作,内作などと呼称される直営耕地が農民の田畑とともに分布する。その後,近世になると防御的機能の必要性は少なくなり,近世農村に包含され,その豪族屋敷主は有力な百姓として肝煎(きもいり)や庄屋を務め,明治以降も村長となって継承した場合もある。豪族屋敷村に類似するものとしては旧薩摩の麓(ふもと)集落があげられる。これは近世薩摩藩の在郷武士団の居住集落で,軍事的・行政的機能を有する。この起源は中世の支配体制に基づくものであるとする考え方があるが,中世的同族武士団は大規模な所替により配置転換され解体されているので,再検討を要する。薩摩藩は秀吉による九州制覇の結果,領土を縮小されたので余剰の武士を郷士として帰農させ,農耕と地方支配行政に従事させ,有事のときには薩摩本城を守備する外城的機能制度を基盤として配置させたとする考え方が一般的である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「豪族屋敷村」の意味・わかりやすい解説

豪族屋敷村
ごうぞくやしきむら

地方豪族の居館や屋敷を中心としてできている中世的性格の集落。関東では館(やかた)、堀之内、箕輪(みのわ)、根小屋(ねごや)、中国、四国では土居、山下(さんげ)、九州では拵(かこい)、麓(ふもと)などとよばれる。丘陵や台地の端や侵食谷底をはじめ沖積平野の自然堤防上などにもみられ、防御上の適地が選ばれることが多い。その集落形態は、中心の豪族の館の周りには、米倉、納屋(なや)、厩(うまや)や下人(げにん)長屋がつくられ、それらの周りには土塁や堀が巡らされる。豪族は下人を使って屋敷の周りの耕地を手作りしていた。やがて豪族の勢力が増強されると土塁や堀が二重につくられるものもできてくる。そして周りに農民や職人、それに商人などの来住するものが増え、寺社も招致されて集落は発達し、城下町が形成されてゆく。

[浅香幸雄]

『浅香幸雄編『日本の歴史地理』(1966・大明堂)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「豪族屋敷村」の意味・わかりやすい解説

豪族屋敷村
ごうぞくやしきむら

日本で中世に成立した集落の一つ。荘園内の有力な名主 (みょうしゅ) たちによって開拓が行われ,名主の屋敷を中心にその家族,血縁関係者および下人や奴婢などの集団で形成された。館,根小屋 (根古屋) ,堀ノ内,箕輪,寄居などの地名をもつ集落のなかにこの種の屋敷村が多い。集村がおもで,集落の周囲に濠や土塁などをめぐらして,外敵にそなえたものが多い。のちに地方の豪族や武士の居館として発達したものもあり,城郭集落の形式をとるものもでてきた。奈良盆地に典型的な環濠集落もその一つといえる。

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