平面形態上,周濠を有する集落。環濠と土塁を有する集落には,豪族屋敷村,寺内町,市場町および城下町などがあるが,農村がもっとも多い。環濠集落は日本だけでなく,ヨーロッパの都市や城館を囲濠した屋敷などにもみられる。例えば,古代都市のバビロンも環濠形態をもち,北イタリアのポー川流域のテラマーレは鉄器時代の環濠集落である。環濠集落の起源については古代の条里的集落に求めるよりも中世末の惣観念の確立と環濠の成立とを結びつけて考える説に注目したい。郷村農民の惣としての紐帯が強固になり,村落自治が発達し,また水利組織が発展して,領主との関係や境界および水利の紛争,それに戦乱などで自衛が必要となり濠や塁が構築されたのである。荘園制が崩壊し,郷村制が台頭してきた時期に,防御的集落として出現してきたのが,この環濠集落である。北九州や山口の弥生式集落遺跡に環濠が検出されたが,この先史的環濠集落に畿内の環濠集落の源流を系譜的に追及しようとするのはむずかしい。一般的にその環濠の幅員は2~4mの単濠であり,環濠の内側に,その濠を掘り上げた土による土塁が造成され,その上に木や竹が植え付けられている。集落への出入口は少なく,だいたい四方全周で4ヵ所に存在する程度であり,門戸の架橋の取りはずしがきく事例もある。集落内部の道路網は丁字型や五字型および袋小路となっており,集落の中心地には寺院や広場が設けられているものもある。さらに環濠集落研究では環濠の機能について議論になるが,集落形成当初は外敵防御,洪水防除,灌・排水,水運などに利用されたが,時代によりその機能の軽重は変化した。現在では灌漑,防火,防水に意義があるが,これらの機能も徐々にその必要性が消失し,環濠や土塁は他に転用されつつある。
過去の集落形態や地域的施設は時代の政治・社会・経済の状勢により変貌する。環濠もその例外ではなく,現代社会に適応するために他に転用・転化されるのも当然のことである。環濠集落の立地点の過半は,大和の場合,標高100m以下の平地にあり,しかも河川の合流点付近に比較的多く分布する。周辺畿内のそれらの分布をみても,低湿地に立地する事例が多く,水を利用した集落の防御が考えられるのである。環濠は沖積低地では河川の分流を利用したものがみられるが,山麓では多くの労力を要した人工的環濠であり,その形態は一様ではない。おもな分布地域は,大和盆地,河内平野,山城盆地南部,湖東平野および佐賀平野の低湿地である。しかし,環濠集落の分布は広い。関東や東北の豪族屋敷村の環濠も中世集落研究上重要であり,東北の場合は歴史的フロンティアの中世的集落の特徴を秘める。なお城下町の環濠をも合わせて研究し,環濠と集落社会構造との関係を追究する必要がある。
執筆者:山田 安彦
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(天野幸弘 朝日新聞記者 / 今井邦彦 朝日新聞記者 / 2007年)
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近畿地方、とくに奈良盆地を中心にみられる特殊な集落形態で、幅4~5メートルの濠(ほり)(堀)を人為的に掘り巡らした集落。城壁と外堀を巡らした一般の城砦(じょうさい)都市をさすのではない。その起源は明らかでないが、中世の社会不安の時代に、村落民が自衛のために堀を掘って村落を防御した名残(なごり)とされている。しかし、奈良盆地の村落の環濠は、条里の溝渠(こうきょ)に基づいて、それを中世に拡大したものもあるとすれば、古代にまで起源をさかのぼることも考えられる。また、奈良盆地は夏には降雨が比較的少なく、水不足が生じやすかったので、環濠に灌漑(かんがい)水を蓄えて利用したことも、奈良盆地に環濠集落が残存した一因ともいえる。
[織田武雄]
弥生時代の特徴的な集落形態の一つ。集落の周囲を濠(溝)で取り囲む。ときには二重三重に溝をめぐらせたり,柵列や土塁・逆茂木(さかもぎ)を設けた遺跡もある。弥生初期に出現し,弥生時代を通じて九州地方から関東地方にかけて分布。韓国でも同様の遺跡が発見されており,環濠集落の成立にはそれとの関係が考えられる。外敵の侵入を防ぐための防御的な機能や,高地性集落とともに弥生時代の軍事的な緊張状態を反映する遺跡と考えられている。佐賀県吉野ケ里遺跡,福岡県板付遺跡,大阪府池上曾根遺跡,愛知県朝日遺跡,静岡県伊場(いば)遺跡,神奈川県大塚遺跡などが著名。
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[弥生時代のムラ]
弥生時代の大規模な集落は,100~200m×70~100mていどの規模が普通で,特例としては400m×300m(大阪府池上遺跡)のものもある。ムラの周囲には濠をめぐらしており,環濠集落の名にふさわしい。濠を二重にめぐらすものもあるが,一重の場合濠の内側ではなく外側に土塁,すなわち土を盛り上げた垣をめぐらしている。…
…弥生時代の大規模な環濠集落跡。佐賀県神埼郡神埼町・三田川町・東脊振(ひがしせふり)村にまたがる。…
※「環濠集落」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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