耕具の形を模した、中国、春秋戦国時代の青銅貨幣。布銭の原型は、鉄製の耕作具であったと考えられ、布貨、布幣も同じ意味であり、柄(え)をすげる部分が中空のままの空首(くうしゅ)布とよばれるものも存在する。都市名を鋳造したものも多く、それらの都市名には韓(かん)、魏(ぎ)、趙(ちょう)に属するものが多い。布銭には耒(らい)系の両足(りょうそく)布と、耜(し)系の彎足(わんそく)布が存在する。両足布のもっとも古い形は尖肩(せんけん)尖足空首布とよばれるもので、肩と足が尖(とが)っている。年代が下ると、肩と足が方形の方肩方足布となり、最後は円みのある円肩円足布へと変化している。彎足布のもっとも古い形は方肩彎足空首布で、新しいものとしては斜肩彎足布や方肩彎足平首(へいしゅ)布がある。中国では解放後、華北、華中を中心に各地で布銭が大量に出土している。このことによって、各型式の布銭が国境に関係なく広い流通圏をもっていたことが知られるようになった。
[飯島武次]
中国,春秋戦国時代に主として三晋(山西南部,河南北部,陝西東部)を中心とする黄河中流域で流通した鏟(すき)形の貨幣の総称。布貨ともいう。布銭の流通地域は華北のいわゆる農耕地帯であり,農耕に不可欠の鏟が当地では貴重視され,交換の媒介に用いられ,そのミニチュア化したものが布銭となったのであろうと考えられている。都市の商工業者が発行したらしく,都市名の刻まれているものが多い。形式から,柄を挿入する銎部(きようぶ)が空洞を呈する空首布と銎部が平板化した平首布に大別されるが,この相違は時間的な先後関係で説明される。平首布の様式は尖足布,方足布,円足布など,きわめて多様であるが,首・肩・足の各部は時代が下るにつれて円形化していく傾向にあり,戦国時代の貨幣の円形化の趨勢を反映している。
執筆者:稲葉 一郎
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布貨ともいう。鉄製農具の鋤(すき)の形を模した中国古代の青銅貨幣。刀銭よりやや早く現れ,春秋時代後半から戦国時代末まで用いられた。流通地域は韓,魏,趙(ちょう)の国のあった山西省が中心。鋳造権は各都市に分散していたらしい。
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…黄河中流域は農耕地帯,下流域は狩猟・漁労の盛んな地方であり,鏟や小刀はそれぞれの地域で必需品として尊重されたものである。 春秋戦国時代に貨幣として広く流通するようになる布銭や刀貨は鏟や小刀のミニチュアとして造られたものである。布銭は初め空首布(柄をさしこむ穴〈銎〉の残っているもの)が,次いで平首布(銎部が扁平化したもの)が造られたが,両者は長く併用された。…
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