企業が新規投資を行うとき,その投資があげなければならない最低限の利益率のこと。切捨率cut-off rate,却下率rejection rateなどともよばれる。投資を行うためには資本を調達しなければならないが,株主,債権者等の投資家は資本提供の対価として利益の分配を要求することから,それを満足するに十分な投資利益率という意味の資本コストが発生する。投資家が株式・債券等の投資に要求する収益率は,収益分配のリスク(不確実性,変動性)が増大するにつれて上昇する。リスクがゼロのときそれは利子率とよばれる。投資収益のリスクは投資家にとって好ましいものではないので,リスクの大きさに対応したより高い収益率すなわちリスク・プレミアムを投資家が要求するからである。したがって,新規投資が稼得する投資家への分配可能利益(営業利益または利子支払前利益)のリスクが,資本コストの基本的な決定要因といえる。
資本調達方法には,自己資本に関して増資・内部留保,負債に関して社債発行・借入れ,そのほかに転換社債,新株引受権付社債等々がある。いかなる組合せが資本コストを最小にするかが企業の最大の関心事であるが,もし資本市場が完全に機能するならば,資本コストは新投資のリスクのみに依存し,資本調達方法には左右されない。しかし,現実には資本市場の制度的分断,税制の非中立性のゆえに資本調達方法によって資本コストは異なると考えられる。日本企業が欧米企業に比べて負債依存度が高いのは,法人税法上の支払利息の損金算入制度の影響で負債の資本コストが自己資本よりはるかに低いためとみられている。
執筆者:若杉 敬明
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企業が使用資本のために負担する価値犠牲。自己資本の資本コストは配当であり、他人資本(負債)のそれは支払利子である。使用資本がこれら両種の資本によって構成されている場合には、資本構成に応じて総資本コストは異なってくる。それは次の式で算出される。
総資本コスト=自己資本コスト+他人資本コスト
=配当率×自己資本比率+利子率×他人資本比率
いま配当率10%、利子率8%とし、自己資本比率が50%(A状態)と20%(B状態)の場合について総資本コストを比べると、A状態では9.0%、B状態では8.4%となる。数字上は負債の多いほうが有利にみえるが、不況期ないし低成長期には配当率が下がるから、逆の結果になる。資本コストは、現在使用中の資本についてのみならず、将来使用する資本についても問題となる。投資決定に際し、資本コストが用いられるのはその理由による。
[森本三男]
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…すなわち,各企業には最低限あげることを要する目標利益率があり,投資から得られると予想される利益の率がその目標利益率を上回っているときに限って,投資に踏み切るものと考えられる。このような必要利益率を資本コストという。資本コストの高さを決定することは,証券市場の重要な機能の一つである。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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