資本コスト(読み)シホンコスト(英語表記)cost of capital

翻訳|cost of capital

デジタル大辞泉 「資本コスト」の意味・読み・例文・類語

しほん‐コスト【資本コスト】

企業調達した使用総資本について負担する費用。配当金支払利息など。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「資本コスト」の意味・わかりやすい解説

資本コスト (しほんコスト)
cost of capital

企業が新規投資を行うとき,その投資があげなければならない最低限の利益率のこと。切捨率cut-off rate,却下率rejection rateなどともよばれる。投資を行うためには資本を調達しなければならないが,株主,債権者等の投資家は資本提供の対価として利益の分配を要求することから,それを満足するに十分な投資利益率という意味の資本コストが発生する。投資家が株式・債券等の投資に要求する収益率は,収益分配のリスク不確実性,変動性)が増大するにつれて上昇する。リスクがゼロのときそれは利子率とよばれる。投資収益のリスクは投資家にとって好ましいものではないので,リスクの大きさに対応したより高い収益率すなわちリスク・プレミアムを投資家が要求するからである。したがって,新規投資が稼得する投資家への分配可能利益(営業利益または利子支払前利益)のリスクが,資本コストの基本的な決定要因といえる。

 資本調達方法には,自己資本に関して増資・内部留保,負債に関して社債発行・借入れ,そのほかに転換社債,新株引受権付社債等々がある。いかなる組合せが資本コストを最小にするかが企業の最大の関心事であるが,もし資本市場が完全に機能するならば,資本コストは新投資のリスクのみに依存し,資本調達方法には左右されない。しかし,現実には資本市場の制度的分断,税制の非中立性のゆえに資本調達方法によって資本コストは異なると考えられる。日本企業が欧米企業に比べて負債依存度が高いのは,法人税法上の支払利息の損金算入制度の影響で負債の資本コストが自己資本よりはるかに低いためとみられている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「資本コスト」の意味・わかりやすい解説

資本コスト
しほんこすと
cost of capital

企業が使用資本のために負担する価値犠牲。自己資本の資本コストは配当であり、他人資本(負債)のそれは支払利子である。使用資本がこれら両種の資本によって構成されている場合には、資本構成に応じて総資本コストは異なってくる。それは次の式で算出される。

 総資本コスト=自己資本コスト+他人資本コスト
       =配当率×自己資本比率+利子率×他人資本比率
 いま配当率10%、利子率8%とし、自己資本比率が50%(A状態)と20%(B状態)の場合について総資本コストを比べると、A状態では9.0%、B状態では8.4%となる。数字上は負債の多いほうが有利にみえるが、不況期ないし低成長期には配当率が下がるから、逆の結果になる。資本コストは、現在使用中の資本についてのみならず、将来使用する資本についても問題となる。投資決定に際し、資本コストが用いられるのはその理由による。

[森本三男]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「資本コスト」の意味・わかりやすい解説

資本コスト
しほんコスト
capital cost

一般に企業が使用する資本の用役に対して負担する費用を意味し,出資者の側からは出資した資本の適正な報酬を意味する。企業の資本は株主だけでなく金融機関やその他の債権者からも調達されるので,調達の源泉によって自己資本コスト,他人資本コストに分類され,さらに自己資本コストは普通株資本コスト,優先株資本コストに,また他人資本コストは短期他人資本コスト,長期他人資本コストなどに分類される。投資決定における資本コストは割引率,拒否率も表わし,投資の必要最小利益率もしくは資本支出の切捨て率を意味する。資本コストの算出の数値も平均値,限界値,実際値,機会値などの種類がある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

株式公開用語辞典 「資本コスト」の解説

資本コスト

企業が事業を行うために調達した資本にかかるコストのこと。資本を調達するためには、株主より出資を受ける株主資本と、債権者より調達する負債がある。株主資本は株主資本コスト、負債は負債コストとなる。なお、株主資本コストと負債コストを加重平均したものを加重平均資本コスト(Weighted Average Cost of Capital)といい、WACC(ワック)とも呼ばれる。

出典 株式公開支援専門会社(株)イーコンサルタント株式公開用語辞典について 情報

ASCII.jpデジタル用語辞典 「資本コスト」の解説

資本コスト

企業が調達した資本全体(借入金や資本金など)にかかるコスト。一方、株主から見れば、出資(資本)に対して要求する利益のこと。株主資本コストとも言う。例えば、借入金における支払利息、株主資本における配当金などがこれにあたる。

出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報

M&A用語集 「資本コスト」の解説

資本コスト

資金を調達するために必要とした費用のことを言う。企業活動のために投下された必要費用を指し、企業会計の側面から見ると、1.借入金コスト、2.社債コスト、3.株式コストの3項目に大別して考えることができる。

出典 M&A OnlineM&A用語集について 情報

会計用語キーワード辞典 「資本コスト」の解説

資本コスト

資本調達にかかるコスト、投資家が期待する収益率のことを資本コストといいます。

出典 (株)シクミカ:運営「会計用語キーワード辞典」会計用語キーワード辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の資本コストの言及

【証券市場】より

…すなわち,各企業には最低限あげることを要する目標利益率があり,投資から得られると予想される利益の率がその目標利益率を上回っているときに限って,投資に踏み切るものと考えられる。このような必要利益率を資本コストという。資本コストの高さを決定することは,証券市場の重要な機能の一つである。…

※「資本コスト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

大臣政務官

各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...

大臣政務官の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android