大唐(たいとう)/(だいとう)米,唐法師(とうぼし)米とも呼ばれた赤い米。大唐米にはうるちともち,赤と白のものがあったが,奈良時代すでに諸国で赤米が栽培されていたのは,《本草綱目啓蒙》が〈白粒ヨリハ赤粒ノ者実多キユヘ,多クハコレヲ栽ユ〉といっているように,栽培しやすく収穫量が多かったためであろう。粘りが少なく味は悪かったが,炊くと倍にふえるとされ,西鶴の《好色一代女》に〈朝夕も余所(よそ)は皆(みな)赤米なれども〉と見えるように民間ではひろく用いられたものであった。〈たいたう(大唐)をこかし(焦し)にしてや飲(のみ)ぬ覧(らん)〉の句が《犬筑波集》に見えるように香煎(こうせん)の材料ともされ,紅粉切(べにきり)といううどん様のものやツバキ餅の材料ともされたことが《合類日用料理抄》などで知られる。
執筆者:鈴木 晋一
ふつうの米は白色と考えられているが,日本では古くから赤色の米がつくられ,特別視されていた。奈良時代の木簡によると,尾張,播磨,但馬から平城京へ貢進されていた。また《兵庫北関入船納帳》によると,1445年(文安2)には約400石あまりの赤米が陸揚げされている。江戸時代になっても,地方の記録や農書などにも見え,ほぼ全国的に栽培されていたと推定できる。民俗学上の調査で明確なのは,岡山県総社市新本にある二つの国司(くにし)神社,長崎県対馬市の旧厳原町豆酘の多久頭魂神社,鹿児島県熊毛郡南種子町茎永の宝満神社で,いつの時代からかは不明であるが,現在まで赤米を栽培している。いずれも神社付属の神聖な水田で栽培され,その栽培担当者が当番制によって固定し,種子もみは門外不出で厳重に管理,祭祀されている。柳田国男は,以上のような事実から,日本人が行事や祝い事のときに,白い米にアズキを用いて赤くするのは,もと日本人が赤い米を食べていた痕跡を示すものとした。すると白い米よりも赤い米の普及が早かったことになるが,現在のところ柳田仮説を越える研究はない。しかし,作物学や植物学によって,中国の雲南を中心とする地方に赤米が栽培されていることが注目され,それとの関係についての研究が進められている。日本で栽培されている赤米はジャポニカ型で,これは劣悪な条件によくたえて生育するが,味覚や収量などの点で白い米に劣っている。すでに近世においても赤米を白い米よりも低く評価し,赤米を駆逐して白い米の栽培を奨励しているが,それは20世紀中ごろまで続き,現在は特定の神社や地域をのぞいて絶えてしまった。日本人の世界観を構成する諸要素の中で,赤米と白い米の問題は重要な役割をもっていると考えられ,研究は将来にゆだねられるといえよう。
執筆者:坪井 洋文
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出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
…麦こがしなど,麦や米をいって粉末とした〈こがし〉(〈はったい〉〈はったい粉〉とも)を指すこともあるが,一般にはそうしたこがしにサンショウ,シソ,陳皮(ちんぴ)(ミカンの皮)などの粉末と少量の塩を加えたものをいい,湯を注いで茶のように飲用する。江戸時代以前から大唐(たいとう)米と呼ばれた赤米(あかごめ)を主材料としてさかんに用いられたもので,《犬筑波集》には〈日本のもののくちのひろさよ たいとうをこかしにしてや飲ぬ覧〉の句が見られる。《合類日用料理抄》(1689)には,薏苡仁(よくいにん)(ハトムギの種子),サンショウ,陳皮,大唐米,ウイキョウ(茴香)を配合する製法が記載され,名物として知られた京都祇園の香煎はこれだとしている。…
…朝廷や官に仕える人々の食事は米を主食とするようになっていることがわかる。諸史料によれば,米には黒米,白米,赤米などの名があり,これは搗白の程度によるものである。黒米は玄米で,白米は舂白(しようはく)米である。…
…それでは赤い飯の先行形態はどうであったかについて,現在のところ2説に分かれている。まず柳田国男の説は,日本人が白い米を食用とする以前に,赤い米を栽培して儀礼用や常食用としていたため,その印象が白い米をアズキで染める習慣を生みだしたという,赤米(あかごめ)先行説と儀礼への固定化説である。東南アジアの稲作圏のなかに,赤米を特定の儀礼に用いている民族や種族があり,赤米のみを常食とするところもあるから,柳田説はこれらと比較する必要がある。…
…〈たいとうごめ〉ともいい,太米(たいまい),秈(とうぼし),赤米(あかごめ)などとも称した。インドシナ半島の南東部にある占城(チャンパ)原産の早稲(わせ)の種類。…
※「赤米」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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