軍拡(読み)グンカク

デジタル大辞泉 「軍拡」の意味・読み・例文・類語

ぐん‐かく〔‐クワク〕【軍拡】

軍備拡張」の略。⇔軍縮

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精選版 日本国語大辞典 「軍拡」の意味・読み・例文・類語

ぐん‐かく‥クヮク【軍拡】

  1. 〘 名詞 〙ぐんびかくちょう(軍備拡張)」の略。⇔軍縮
    1. [初出の実例]「第一次世界大戦にはいると、海軍の軍拡は、いよいよ本格的になってきた」(出典:現代日本技術史概説(1956)〈星野芳郎〉四)

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改訂新版 世界大百科事典 「軍拡」の意味・わかりやすい解説

軍拡 (ぐんかく)

軍備拡張,軍備拡大の略。軍備という場合,少なくとも二つの側面が含まれている。第1は兵器の体系である。これの増強には兵器の量的な増加と,質的な強化とが含まれる。近代のテクノロジーは,大量生産と急速な技術開発とを特徴としているが,兵器の量と質の増強はこれに対応している。第2は軍事的な組織である。これの強化・拡大も軍拡の重要な要因である。例えば,かりに兵器の増強を行わなくても,国際的に外国と軍事同盟を結んだり,合同演習を行って共同作戦の態勢をつくったり,外国に基地を設けて兵器の配備を拡大したりすることは,軍事力増強の効果をもつ。また国内で,マス・メディアや教科書の統制などによって世論操作や教育の管理を強め,国民の意識を軍拡支持へと変えていくことも,軍事力増強の効果をもつ。これらは要するに社会組織の軍事化による軍拡である。では軍拡を引き起こす動因は何か。一般的にいえば,軍拡の力学を支える要因として次の三つをあげることができる。

 第1は,利害が対立する国家間の関係,とくにほぼ伯仲する国力をもって対立する国家間の関係でおこる拮抗作用の力学である。相互不信の関係にある国家は,一面で,相手国の国力とくに軍事力の増強や優位を,ただちに自国への危険と受けとる傾向を示す。同時に,他面で,相手国に優位になるまで軍事力を増強しなければ,自国の安全が保てないと考える傾向を示す。ここには明らかに矛盾がある。なぜなら,一方の優位は他方への脅威であり,したがって双方が自国の安全のために優位に立とうとすれば,軍拡競争の悪循環は避けられない。安全保障を目的に掲げる軍拡が,かえって安全への脅威を生みだすのはこのためである。こうした拮抗作用について,それは力の優位ではなく〈勢力均衡〉を目ざすものだ,という名目で正当化が試みられることが多い。しかし〈均衡〉という言葉は,一見同等の力関係を指すように響くが,国力とか軍事力は正確に計測して比較できない性質のものであるから,実際にはいわば安全を見込んで,〈均衡〉の名の下に優位を追求することが相互に行われるのが普通である。

 第2は,大国が小国や弱小民族を支配する,大国主義や帝国主義の力学である。この際,他の大国と植民地や勢力圏を争奪するために軍拡を行うことも多いが,それは上述の第1の型に属する。ここで大国主義の力学というのは,軍拡が被支配民族の抵抗を鎮圧することに向けられる場合を指す。例えば七つの海を支配したイギリスを典型とするように,帝国の樹立は強大な海軍建造をその支えとするのがふつうである。また帝国の維持のために,被支配民族の抵抗を平定する目的で,巨額の軍事費や軍備を投入して弾圧や植民地戦争を行うことも珍しくない。

 第3は,軍部や軍産(官)複合体などの,自己保存と自己肥大化の力学である。つまり第1の拮抗作用による軍備競争や,第2の帝国主義支配のための軍拡が直接の契機であるにしろ,そうした軍拡のレールがいったん敷かれると,もともとは軍拡の手段として強化された軍部や,軍拡に付随して生まれた軍産官複合体が,今度はその組織や既得権益そのものの維持・肥大を自己目的とし,その手段として対外的な軍拡競争や小国への軍事介入などを行うようになる。19世紀のドイツや日本,今日の多くの発展途上国など相対的後発国の場合のように,もともと国内構造のうえで影響力の大きかった軍人層が,軍備競争や戦争をとおして一段と国内での権力を強め,しだいに軍部の権力維持が自己目的化したという例もある。しかし最も端的な例は,第2次大戦後のアメリカである。元来軍の影響力の小さかったアメリカで,冷戦の過程で巨大な軍産複合体が生まれ,それが自己の既得権益を維持するために冷戦の持続や激化を推進する勢力となった。その結果,1961年にはアイゼンハワー大統領がその離任演説で,アメリカの民主主義を内側からおかす〈軍産複合体〉の形成に対して強い警告を行うまでになった。他方ソ連においても,もともとロシア革命で旧軍隊が解体し,新たに編成された赤軍も共産党の強力な文民支配の下に長い間おかれてきたが,第2次大戦後の持続的な冷戦の下で,しだいに巨大な軍産官複合体ができ上がり,それが米ソ間の軍拡競争を続け,軍縮や軍備管理を妨げる一つの要因となったとみられる。

 現実の軍拡は,上述の三つの力学を,それぞれの比重に差はあれ複合的に含んでいることが多い。では軍拡はどのような効果をもたらすか。第1の対立国家間の軍拡競争という側面についていえば,国際的・国内的によほど強力な歯どめがない限り,戦争と相互破壊に導く公算が大きい。第2の帝国主義的軍拡の側面については,現代では被支配民族の強い抵抗を受けて泥沼のような植民地戦争におちいり,やがて帝国主義の崩壊に導くのが通例となった。第3の軍産官複合体による軍拡の側面についていえば,対立する国々の軍産官複合体は,一面で敵対しつつ他面で相互に軍拡と組織の肥大化とを促進し合い,相互補強の関係に立つ。他方それぞれの国内では財政・経済の破綻,民主主義の否定や空洞化を生み,〈だれのための軍拡か〉という疑問を広く国民の間に招き,軍産官複合体の存在理由を国内から崩していく可能性を内包している。
軍事化 →軍縮
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