辻が花(読み)ツジガハナ

デジタル大辞泉 「辻が花」の意味・読み・例文・類語

つじ‐が‐はな【×辻が花】

模様染めの名。室町中期から桃山時代にかけて盛行帷子かたびら麻布ひとえ着物)に紅を基調にして草花文様を染め出したもの。絞り染めに、描絵・り箔・刺繍ししゅうをほどこしたものを今日では俗に辻が花とよんでいるが、技法は明らかでない。辻が花染め。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「辻が花」の意味・わかりやすい解説

辻が花 (つじがはな)

絞染を基調とする模様染。15世紀前半に成立した《三十二番職人歌合》の桂女の歌に初めてその名が現れ,当時庶民の布(麻,葛)小袖に染められた模様染であった。その後,室町幕府の故実書によると,武家の女性や子,若衆は用いてもよいが,成人男子は紅入らずのものならば犬追物の装束には用いてもよいとあり,庶民から武家の所用へと広がっている。ついで1596年(慶長1)豊臣秀吉が明国の使者へ辻が花帷子(かたびら)を贈っており,《日葡辞書》(1603)に日常語として収録されている。その解説によると,(1)赤やその他の多色染であること。(2)木の葉模様や文様があること。(3)帷子であること。第二義的にはその模様,あるいは絵そのものを辻が花というとある。また語源については諸説あり不明な点も多いが,《御傘(ごさん)》(松永貞徳)や《柳亭筆記》などがあげているように,十字形に花を配した特有の模様を多色で染めたものとするのが妥当である。

 衣料は消耗し尽くされて残らないのが常であるが,戦国時代から桃山時代にかけて武将が部下の恩賞に与えたもののなかに辻が花と呼ぶものがある。それらの遺品は着用者の身分が限定され,しかも辻が花が生まれてから1世紀ほど後のもので,絞染のもの,絞染に描き絵のあるものなどさまざまである。現存遺品のなかで最も辻が花的な特色をもつものは淀君着用の小袖,豊臣秀次の妻妾たちが用いた小袖裂など,絞と装飾的な描き絵が融合する一群の遺品である。その共通する特色を挙げると,(1)草花模様と州浜形,松皮菱石畳などを組み合わせて充てんした模様であること。とくに斜格子を入れたものが多いこと。(2)草花は椿,菊,藤などを図案化した定型的な模様であること。(3)図柄はすべて模様の輪郭を縫い絞って染め分け,花や葉にぼかし墨をさし,格子に濃墨をさしている。

 このように図案および表出の手法が共通していることは量産により類型化したことを示し,その最も特徴とするのは墨さしによる図案的な描き絵である。模様の輪郭は細い画一的な線で描かれ,絵具を塗るように墨をさす。描法の巧拙の差はほとんどみられず,プリントのように定型化している。しかし日本の四季を代表する桜,藤,菊,薄,椿などの装飾的な描き絵に,花や葉は露を宿し病葉(わくらば)やむしばまれた花もあり,その寂びた風情は辻が花独自の持味となっている。描き絵は本来は画師が手がけ,絵画的な図様であったが,辻が花は絞と描き絵が連続工程で行われるため,同一工房の職人が描いたので文様化したのである。生地は練緯(ねりぬき)が多いが紬(つむぎ)風のものもあり,また摺箔(すりはく)や刺繡を加えた高級品もある。すなわち辻が花は絞,描き絵を主に,時には摺箔や刺繡なども加え伝統技法を結集して作り出した模様染であるが,江戸初期以後は各技法が個々に自主的に発展し,辻が花自体は消滅した。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「辻が花」の意味・わかりやすい解説

辻が花【つじがはな】

模様染の一種。絞染を主にして描き染や摺箔(すりはく)を加えて花鳥などを構成する優雅な模様。室町時代から始まり,特に桃山時代に流行したもので,すぐれた当時の小袖(こそで)や胴服が残されている。江戸時代になると模様絞,描絵,刺繍(ししゅう)などの技法が普及し,辻が花染は跡を断った。
→関連項目久保田一竹染物

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内の辻が花の言及

【染色】より

…またこの刺繡に金銀の摺箔を併用した繡箔(ぬいはく)は,桃山染織の絢爛豪華さの象徴といえる。 一方,その独特の瀟洒(しようしや)な美しさをもって当代を風靡(ふうび)したのが,絞染の一法である辻が花染であった。辻が花染は今日遺品のうえで考えられるかぎり,およそ室町時代の中ごろにその素朴な姿を現し,わずかな間に非常に精緻なものに発達して,当代の染色に大きな足跡を残しながら,江戸時代初期には卒然としてその姿を消してしまう。…

【室町時代美術】より

…上杉神社に伝わる伝上杉謙信・景勝所用の鎧下着や陣羽織,胴服などの斬新な意匠は,そのことを示す貴重な遺品である。多色の練染に墨や朱の描絵を加えたいわゆる辻が花染も,室町末に流行した。1566年(永禄9)岐阜県郡上郡白山神社に奉納された〈白地花鳥肩裾模様辻が花染小袖〉(小袖)が,当時の辻が花の清楚な美しさを伝えている。…

※「辻が花」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android