透・空(読み)すかす

精選版 日本国語大辞典 「透・空」の意味・読み・例文・類語

すか・す【透・空】

〘他サ五(四)〙 (「すく」の他動詞)
[一] 空間、空白ができるようにする。
① すきまを作る。穴をあける。
平家(13C前)四「太刀をぬいてたたかふに、かたきは大勢なり〈略〉八方すかさずきたりけり
※洒落本・仕懸文庫(1791)三「鶴といふ字を鏤(スカ)したる竹簾かけたるは」
一部分を取り除いて間を粗くする。まばらにする。
※枕(10C終)九〇「五節の局を、日も暮れぬほどに皆こぼちすかして、ただあやしうてあらする」
※良寛歌(日本古典全書所収)(1835頃)「やぶをすかしてのちよめる わが宿の竹の林をうちこして吹き来る風の音のきよさよ」
③ 数量をへらす。また、「腹をすかす」の形で空腹になる意にいう。
太平記(14C後)九「京中の勢をばさのみすかすまじかりし物をと」
※苦の世界(1918‐21)〈宇野浩二〉一「十分おなかをすかしてゐるにちがひない母に」
④ (刀を)少し抜く。
曾我物語(南北朝頃)九「太刀の鍔元二三寸すかし、足早にあゆみよりけるが」
⑤ その場をはずす。去る。
※虎明本狂言・痩松(室町末‐近世初)「あしもとのあかひ時、はやうすかさう」
⑥ 間をおく。時間をあける。→すかさず
浄瑠璃仮名写安土問答(1780)初「小三郎は一心に〈略〉正八幡に立願祈誓、そこを透(スカ)すな生捕と、組付く家来多勢を」
⑦ 気持にすきまをつくる。油断する。手ぬかりをする。
浮世草子・西鶴織留(1694)五「命も身体も宿に居ながら祈れと万事にひとつもすかさぬ人のいへり」
⑧ 取引所での売買の建玉の数をへらす。
[二] すきまを通す。
① すきまから通るようにする。すきまを通して見えるようにする。また、ものを通して見えるようにする。
落窪(10C後)三「やい軸に色どりなして、うすものにすかし給へりける」
日葡辞書(1603‐04)「トヲ アケテ カゼヲ sucasu(スカス)
逆徒(1913)〈平出修〉「彼は暗を透してそこに何ものかを見出し」
② 身をかわす。やりすごす。あてがはずれるようにする。
※俳諧・西鶴大矢数(1681)第二一「撞懸てすかして置て投の勝 噯きかすにいかなるか末」
③ 音をたてずに放屁する。
※浮世草子・傾城色三味線(1701)湊「尻をまくりあげて〈略〉音なしに二つ迄すかしければ」

す・く【透・空】

〘自カ五(四)〙
[一] 空間的、または時間的に、すきが生じる。
① すきまができる。空間的な余裕ができる。
今昔(1120頃か)二六「能も不埋ければ、穴の底は透たる様にて」
② そなわっていたり、つまっていたりしたものが欠けてまばらになる。希少になる。
源氏(1001‐14頃)総角「歯はうちすきて、愛敬なげにいひなす女あり」
※家(1910‐11)〈島崎藤村〉下「空(ス)いたところへ行って腰掛けた」
③ 肉がおちる。頬がたるむ。
※京大二十冊本毛詩抄(1535頃)四「顔の上のひろさ程に頬も有を云ぞ〈略〉上へは広けれども頬がすいたれば悪ぞ」
④ 時間のあきができる。ひまになる。
※恋を恋する人(1907)〈国木田独歩〉二「女中の手もすいたので或夕、大友は宿の娘のお正を占領して飲んで居たが」
⑤ 手抜かりがある。油断をする。
※浮世草子・日本永代蔵(1688)三「観音信仰にはあらず是をすべき手だてさてもすかぬ男」
※滑稽本・浮世床(1813‐23)二「女の事と欲ばりにゃア五分も透(スカ)ねへ」
⑥ つかえていたものがとれる。さっぱりする。
※驟雨(1900)〈国木田独歩〉上「晴れゆく雨の名残を見送るほど胸のすくものはなく」
⑦ 空腹になる。
※閑居友(1222頃)上「田かへしになんまかれりけるに、れいよりも、げにすきいりぬべくおぼえければ」
※女難(1903)〈国木田独歩〉三「お前腹が減(ス)きはせんか」
[二] (透) 物のすきまからとおる。
① 物をとおして見える。すける。
※宇津保(970‐999頃)内侍督「今さへやすきて見ゆらん夏衣ぬぎもかふべき秋の暮には」
※源氏(1001‐14頃)若菜下「色はさをに白く美しげに、すきたるやうに見ゆる御膚つきなど」
② 物の間をとおる。
※更級日記(1059頃)「風すくまじくひきわたしなどしたるに」

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