都市化社会のなかで勤労者階層が居住地と職場との間を毎日,定期的に往復する社会流動現象。業務交通とならんで都市交通のなかで最も大きな分野を占める。もともと一体であった居住地と職場が分離するようになったのは,経済社会の発展にともない職場の集約化による業務能率の向上と,良好な居住環境の確保による労働力再生産性の向上という社会的要請の高まりによるものであった。しかし都市への人口集中がすすむにつれて,都市は職場地域と居住地域に分化しながら膨張し,従来の職住近接型の徒歩や自転車通勤圏からあふれ出た人々は郊外居住地域やニュータウンに居住し,バス,鉄道などの公的大量輸送交通機関を利用して通勤することが,都市社会の特徴となってくる。このような階層をアメリカでは通勤定期券階層(コミューターcommuter),日本では通勤サラリーマンと呼んでいる。都心業務地を目的地とする通勤者の居住する圏域を通勤圏commuter beltといい,この圏域は都市への人口集中と交通機関の増設,スピードアップ等によって拡大していく。東京大都市圏では1880年都心から半径5km圏内に224万人が居住し,徒歩通勤であったが,85年赤羽-新宿-品川をつなぐ鉄道が開通,99年には通勤定期乗車券が発売され,1925年山手線の環状運転が開始されている。60年代には通勤圏は40km圏,70年代には60km圏にまで拡大し,交通機関を利用しての通勤時間も80年には平均66分に達し,もはや限界といわれている。東京圏の通勤者は793万人,うち東京都を到着地とするもの557万人,うち212万人は周辺各県からの通勤者である(1980)。朝夕の一定時刻に大量の乗降客が集中して通勤ラッシュが起こるが,そのピークの時間帯(ラッシュアワー)には,主要路線での乗車率は定員の3倍前後にも達する。国鉄(現JR)では1959年以来,時差通勤通学の実施を呼びかけているが,ラッシュの解消にはほど遠い。
このような通勤人口の増加や通勤の長距離化は,心身の疲労,文化的生活時間の切詰めなど勤労者の生活に不健全なひずみを与える一方,長くなった通勤時間をすごすために読む夕刊紙や週刊誌のブームなどももたらしている。また,成人男子のほとんどが居住地域に昼間不在のため,ベッドタウン(住宅都市)におけるコミュニティの日常活動はもっぱら主婦,老人,子供によって行われざるをえないという問題も生じている。高速自動車専用道路による通勤難解消策がロサンゼルスで試みられたが,都心の2/3を交通空間にあてても交通渋滞は解消せず,光化学スモッグの発生で失敗したし,公的大量輸送交通機関の増強も,一点集中型都市構造での片道輸送形態はきわめて非効率である。都市住民の半数以上が職業,労働条件,所得水準などから居住立地を限定される階層であることから,市街地内部への住宅の呼戻しに重点をおいた職住近接型の多核型都市構造への転換を目ざす都市再開発の必要性が叫ばれている。
→都市交通
執筆者:牛見 章
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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