清浄光(しようじようこう)寺(遊行寺ともいう)を拠点とし,回国する時宗の指導者の称。特に時宗の開祖一遍,その弟子で時宗遊行派の祖他阿真教をさすことも多い。遊行は,本来修行僧が衆生教化と自己修養のために諸国を巡歴することで,仏教の修行の主要なものの一つであった。飛錫,巡錫などの語でもあらわし,禅宗では行脚の語を多く用いる。平安時代には山野を抖擻(とそう)する聖(ひじり)があらわれ,修験道では遊行が重んぜられた。諸国を遊行する聖たちは,さまざまな信仰をもっていたが,念仏を広めようとする遊行僧の流れの中から,鎌倉時代の中期に一遍があらわれ,一所に止住することなく諸国を巡歴して念仏を勧め,賦算(ふさん)を行うという活動に,宗教的な意義づけをし,時宗が開かれることになった。一遍の死後,念仏の道場が各地に建てられると,そこに止住する僧もあらわれて,時宗の教団が形成されるようになったが,いくつにも分派した時宗の中心となった遊行派は,相模藤沢の清浄光寺を拠点として発展した。時宗の指導者は遊行上人と呼ばれ,生ける仏として崇敬され,多くの信徒を率いて回国巡行を続けたが,晩年に遊行を続けることが困難になると,清浄光寺に引退した。寺に住むようになった上人は,藤沢上人と呼ばれたが,鎌倉時代末以降,藤沢上人が没すると,回国中の遊行上人はその地位を後継者に譲って清浄光寺に入り,藤沢上人をつぐのが時宗の慣例となった。遊行は,諸国の大小の道場を一つ一つ巡歴するものであったが,室町時代中期には全国の道場は2000に及んだ。多くの信徒を率いての遊行は種々の困難を伴い,遊行上人の回国記の類に記録されているが,中世末期以降,遊行を順調に行うために教団が権力に接近するようになると,賦算の権限を独占する遊行上人は,庶民に対して高い権威をもち,遊行も幕府や大名からさまざまな特権を認められ,沿道の庶民の負担をよそに形式化して宗教性を失った。
→時宗
執筆者:大隅 和雄
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時宗(じしゅう)教団の指導者の地位の呼称。元来「遊行」ということばは仏典にみえ、宗祖一遍(いっぺん)は平安時代の遊行者空也(くうや)を「わが先達(せんだつ)なり」(『一遍聖絵(ひじりえ)』第7)と敬慕し、自身も「居住を風雲にまかせ」(同前)る布教伝道の旅(遊行)に生涯を終えた。しかし二祖他阿真教(たあしんきょう)の代になると、時衆は多数の外護(げご)者の要求をいれて寺や道場に止住するようになり、教団の体制を固めていく。
[広神 清]
『大橋俊雄著『時宗の成立と展開』(1973・吉川弘文館)』▽『今井雅晴著『時宗成立史の研究』(1981・吉川弘文館)』
遊行聖(ひじり)とも。諸国を遍歴遊行し仏道修行する僧侶。なかでも時宗の開祖一遍は,諸国を遊行しながら遊行札とよばれる念仏札を配り,民衆の念仏教化を行ったので遊行上人とよばれた。2祖真教は遊行派という時宗の根幹をなす一派を築いた。時宗の総本山である神奈川県藤沢市の清浄光(しょうじょうこう)寺は遊行寺の名で知られ,歴代住職も一遍同様諸国を遊行したので遊行上人とよばれた。
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出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
…中世には武田氏一族の保護を受けて栄えた。近世・近代では時宗の指導者遊行上人の候補者が住職となる重要寺院であった。1952年時宗から独立。…
…老武者とあなどられぬための武人のたしなみとわかり,源氏方の武将はみな深い感銘を受けたという。また《満済准后日記》応永21年(1414)5月11日条に実盛の霊が加賀篠原に出現し,時宗の遊行上人が十念を授けてとむらった記事があり,当時こうした伝説類が流布していたらしい。謡曲《実盛》は遊行上人が篠原で実盛の霊をとむらうという内容で,世間に流布していた伝説類にもとづいて脚色されている。…
…一遍の死後,あとを受けついだ他阿弥陀仏(他阿)真教は,各地に寺を建てて教団の組織化につとめた。一遍と真教の活動は,《一遍聖絵》《遊行上人縁起絵》などによって伝えられている。時宗の代々の指導者は,遊行の生活を続けたので,遊行上人と呼ばれた。…
…鎌倉時代の時宗の僧で,遊行上人第2世。他阿弥陀仏と称した。…
…鎌倉時代の時宗の僧。遊行上人第4世。他阿弥陀仏と称した。…
… しかし,遊行聖の典型は,寺に住せず,踊念仏と賦算(ふさん)(念仏の札配り)の一生を送った時宗開祖一遍と,彼に従った時衆に見いだしうる。一遍没後は他阿真教が遊行上人となり,道場経営にも力を入れた。また,遊行上人が老病などのため遊行困難となると道場に隠居し(独住という),藤沢上人と号した。…
※「遊行上人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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