道路公害(読み)どうろこうがい

改訂新版 世界大百科事典 「道路公害」の意味・わかりやすい解説

道路公害 (どうろこうがい)

道路を自動車が走行することによって発生する公害。すなわち騒音振動大気汚染を主たる内容とし,とくに高架道路に顕著に現れる低周波公害,電波障害,通風妨害,日照妨害,景観破壊,地域分断による地域社会破壊および以上のものを原因として住民の中に起こる精神的荒廃現象,さらに道路施工段階における騒音,振動などの建設公害など,モータリゼーション社会において自動車道路によって沿道住民が被るさまざまな被害を総称して道路公害という。

 第2次世界大戦後の日本が経済高度成長期を迎えるに当たって,自動車産業の振興が関連産業に刺激を与え,消費意欲を促進することから,自動車の増産が政策的に奨励された。この結果としての国内における自動車保有台数の急激な増加は,旧来の道路,それも一般国道や都道府県道などの幹線道路だけでなく,住民の日常生活のための市街地道路までも,自動車に埋めつくされるという事態を生じた。そのうえ,1956年に日本道路公団が発足して,全国に自動車専用道路をはりめぐらせる基礎が確立し,さらに首都高速道路公団(1959),阪神高速道路公団(1962),名古屋高速道路公社(1970)など,公団・公社方式による都市内高速自動車専用道路によって,三大工業地帯を幹線道路と結合させる集中的な自動車道路網の整備が推進された。この場合,公共施設の立遅れのまま過密化した日本の大都市において,高速道路建設が当初の間ほぼ順調に進行したのは,国と財界の強い要請と,遅れた道路事情からの解放を求めた自動車ユーザーの要請が合致したからであり,また東京オリンピック(1964)や大阪万国博(1970)という国際的行事の開催も大きな促進要因となった。こうして自動車道路が急速に整備されたことは,既設道路における自動車走行量の増加とともに,各地に深甚な道路公害を発生させることとなった。とくに人口過密の大都市における高速道路が,公共用地の高度利用という理由で,既設道路,運河埋立跡,河川敷などの上や,ビルの谷間屋上などをかけめぐる高架道路の方式をとることになったため,人間生活に必要な空地の創造に役だった,かつての都市計画街路とはまったく性格を異にする都市生活破壊の道路であるとの批判が生じ,道路公害反対住民運動が沿道各地で展開されるようになり,それはさらに幹線道路や都市間高速道路をはじめ一般道路沿いにも広がっていった。

 道路公害という語は,当初,住民運動の側がこれを使用し,71年ごろから全国的に一般化し,定着するようになった。自動車公害や交通公害という表現では包括しきれない被害実態が存在することと,産業優先の道路行政を告発し,交通システムそのものの改革を要求するという立場から住民運動が使用したのであったが,自動車優先の道路行政の欠陥が広く一般に認識されるとともに道路公害の語が一般化したのであった。道路公害の特徴は発生形態の多様性にあり,複合汚染,線状広域汚染となって住民を襲うため,被害が広域に及び,かつ,一つ一つの被害が大きいことである。したがって道路公害対策は,被害者救済,発生源対策,道路構造対策,沿道環境整備対策,交通規制対策を総合的に調整しつつ実施する必要がある。また,既設道路の公害問題を解消し,新規道路建設の必要性を減退させるため,自動車保有の伸びを逓減させ,自動車走行の総量規制を推進することが重要である。さらに,道路計画策定への住民参加の問題がある。現行の道路法制のもとでは,私権制限の効果をもっている道路計画の合法性を事前に争う包括的な救済制度が規定されていないし,住民参加規定も極端に薄弱である。したがって新設道路計画地域においては,住民側が訴訟にもちこんでの争いを含めて,長期のねばり強さと激しさを備えた運動を展開することが多く見られるのであり,この点の解決もたいせつなことである。世界的には,モータリゼーションがもっとも早く進行したアメリカの大都市においては,第2次大戦前から道路公害現象が見られたが,狭い国土に人口の密集した日本が,急速かつ安易にモータリゼーションを推し進め,通過交通重視の立場で巨大な道路投資を行ったことが,きわめて日本的な道路公害を長年にわたって引き起こしているといえる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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