選挙の自由・公正を害するかまたは害するおそれがあるものとして公職選挙法によって刑罰の対象とされている行為。このような行為を行うことを選挙違反ともいう。選挙犯罪は,買収罪・選挙妨害罪のような自然犯的・刑事犯的なものと,選挙運動取締規定違反のような行政犯的なものに分けることができる。日本では1925年の普通選挙法の制定以降後者も処罰の対象とされ,現行公職選挙法にもこの種の犯罪が多数規定されている。
刑事犯的選挙犯罪をあげると,買収に関する罪としては,選挙人または選挙運動者に対する買収罪等(公職選挙法221条),選挙ブローカー取締りのために新設された図利的多数人買収罪等(222条),候補者または当選人に対する買収罪等(223条),新聞紙・雑誌の不法利用罪(223条の2-1項,148条の2-1項)がある。これらの犯罪においては被買収者も処罰される(221条1項4号・5号,223条1項3号,223条の2-1項,148条の2-2項)。選挙妨害罪としては,暴行,不正な方法,利害関係を利用した威迫等による自由妨害罪(225条),投票の秘密を害する罪(226条2項,227条,228条),兇器携帯罪(231条)がある。刑事犯的なものとしてはほかに,候補者に関する虚偽事項公表罪(235条,235条の2-1号,235条の3-1項),投票数増減罪等の投票に関する罪(236条,237条,237条の2),選挙犯罪の煽動罪(234条)をあげることができる。
行政犯的選挙犯罪としては,選挙費用取締規定違反の罪(246~250条)と各種の選挙運動取締規定違反の罪が重要である。とくに後者は多数あるが,事前運動の禁止(239条1項1号,129条),戸別訪問の禁止(239条1項3号,138条),文書図画の頒布の制限(243条1項3号,142条),ポスターの数および掲示の制限(243条1項4号,144条,244条1項3号,145条),規定外の新聞紙・雑誌による選挙報道・評論の禁止(235条の2-2号),立会演説会および所定数以外の個人演説会の禁止(243条1項8号の3,164条の3)等が規定されている。
選挙犯罪に対しては刑罰のほかに付随的制裁が定められている。当選人がその選挙に関して一定の選挙犯罪を犯し刑に処せられたときは当選は無効となる(251条)。また連座制の規定により,選挙運動の総括主宰者,出納責任者,組織的選挙運動管理者等が一定の選挙犯罪を犯し刑に処せられた場合も当選は無効となり,また,当該選挙区からの立候補が5年間禁止される(251条の2,251条の3)。さらに,選挙犯罪による処刑によって一定期間公民権が停止されることがある(252条)。選挙犯罪の訴追に関しては,当選無効の制度を実効あらしめるために,事件受理から100日以内の判決に努めるべしとする百日裁判の規定(253条の2)がある。
刑事犯的な選挙犯罪は選挙の自由・公正を直接的に侵害するものであり,その処罰にとくに問題はない。しかし,行政犯的な選挙犯罪,とくに文書違反禁止規定と日本独特の戸別訪問禁止規定については,憲法21条の表現の自由との関係でその処罰根拠が問題となる。判例は選挙の公正という観点から,これらの制限も公共の福祉のために憲法上許された必要かつ合理的な制限であるとしている。とくに戸別訪問については,買収等の温床となりやすい,選挙人の生活の平穏を害する,候補者側も訪問回数を競う煩に耐えない,多数の出費を余儀なくされる,投票も情実に支配されやすくなるといった弊害があるとする。しかし他方で憲法上の学説においては,戸別訪問や文書は最も有効でだれもが用いうるものであり,政治的意見伝達手段として必要不可欠であるとする見解も多い。問題は両者の調整にあるが,刑法的観点からは,それらの行為を処罰するためには選挙の公正に対するある程度具体的な危険性が示されねばならず,そのような危険性のないものも一律に処罰するとすれば刑罰法規としての正当性を欠くことになる。
選挙犯罪の実際の動向をみてみると買収犯罪が圧倒的に多く,それも地方選挙など選挙区が狭い選挙ほど多くなる。買収額も高額化し,組織を利用した大規模なものも増えているが,一方で,地方選挙では日用品の供与も多いと指摘されている。選挙犯罪による第一審の有罪人員をみると,罰金刑が圧倒的に多く,自由刑の場合も執行猶予に付される者がほとんどである。百日裁判の審理促進の規定にもかかわらず,実際に100日以内で判決がなされる場合は非常に少なく,通常は1~2年を要し,3年を超えるものも少なくない。その原因としては,共同被告人が多数である場合もあるが,当選人が当選無効を避けようとすること,恩赦を期待することもあげられている。
選挙犯罪の対策としては,訴訟を促進して当選無効の制度を機能させるとともに,とくに従来から指摘されている買収犯罪軽視の風潮を国民が改めることも必要である。
→選挙運動
執筆者:林 美月子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(蒲島郁夫 東京大学教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…選挙はがきの支給,選挙公報,政見放送などはその例である(167条など)。選挙公営
[選挙犯罪]
公選法に違反する選挙が行われれば,その違反者は処罰の対象となる。一般に選挙違反を犯した場合の選挙犯罪の内容は二つに大別される。…
…まず,公選法11条では,(1)禁治産者,(2)禁錮以上の刑に処せられ,その執行を終わるまでの者,(3)禁錮以上の刑に処せられ,その執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く),(4)選挙に関する犯罪により禁錮以上の刑に処せられ,その刑の執行猶予中の者は,選挙権,被選挙権を有しないとしている。そして252条では選挙犯罪の受刑者に,一般犯罪による受刑者よりも厳しい処分を科している。すなわち,(1)罰金刑に処せられた者は,裁判確定のときから5年間(刑の執行猶予の言渡しを受けた者については,その裁判が確定した日から刑の執行がなくなるまでの間。…
※「選挙犯罪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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