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遺題継承 いだいけいしょう

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

遺題継承
いだいけいしょう

江戸時代初期の和算家の間で行われた風習で,ある数学者が解答をつけずに著書に提出した問題 (遺題または好〈このみ〉という) を,別の数学者が解き,著書を著わして答え,みずからの問題を提出して残すこと。吉田光由の寛永 18 (1641) 年版の小型本『塵劫記』に遺題 12問が収められていたことに始る。遺題継承の習慣は,江戸時代初期の数学の発展と普及に大きな刺激を与えた。『塵劫記』の遺題を解いた書が相次いで出され,榎並和證『参両録』 (53) ,初坂重春『円方四巻記』 (57) ,山田正重『改算記』 (59) ,前田憲舒『算法至源記』 (73) は全問を解き,多数の遺題を残した。また,『塵劫記』とともに当時の日本数学の規範となった今村知商の『竪亥 (じゅがい) 録』 (39) の影響を受けたものに,磯村吉徳の『算法闕疑抄』 (59) がある。

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世界大百科事典 第2版の解説

いだいけいしょう【遺題継承】

遺題承継とも。1627年(寛永4)初版の《塵劫記》はベストセラーとなり,何回も改版された。41年に小型3巻本に改版したとき,著者の吉田光由はこの書の巻末に12問の難問を掲載し,世間の数学者に挑戦した。このような問題を〈遺題〉,あるいは〈好み〉という。多くの数学者がこの《塵劫記》の遺題に挑戦した。初めて,この難問の解答を公開したのは榎並和澄(えなみともすみ)である。榎並は12年後の53年(承応2)に《参両録》を出版し,その中に《塵劫記》の遺題のいくつかに解答を示した。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

遺題継承
いだいけいしょう

江戸時代の数学(和算)の問答形式の一つ。1641年(寛永18)刊の『塵劫記(じんごうき)』には、読者の力試しの問題12問がある。著者の吉田光由(みつよし)は序文のなかで、その当時、数学の力がないのに数学塾を開いている者が多かったとし、この12問は、塾の先生の力量を試すための問題だといっている。数学書に書かれたこのような問題を遺題という。12年後、榎並和澄(えなみともすみ)は初めて『塵劫記』の遺題の解答を自分の著書『参両録(さんりょうろく)』のなかに示した。『参両録』には新しく遺題8問が提出されたので、ここに遺題継承というリレー式の問答が始まった。『塵劫記』から始まった遺題継承は大流行し、前者の遺題の解答と自分の出題を掲載する数学書が多く出版された。また、遺題も100問、150問と多くなり、なかには前者の遺題の解答と自己の出題だけの数学書も現れた。数学の内容は急激に高度化し、17世紀末には、行列式、高次方程式、不定方程式などの高等数学が研究されるようになった。遠藤利貞(としさだ)は遺題の系譜を、『塵劫記』から始まる第一系のほかに、『数学乗除往来』『算法勿憚改(ふつだんかい)』『算法樵談集(しょうだんしゅう)』から始まる系譜をそれぞれ第二系、第三系、第四系と分類している。しかし、実際に後世に大きな影響を与えたのは第一系だけで、とくに『塵劫記』の遺題第一〇問の「円截積(えんさいせき)」は、18世紀初頭の無限級数展開を生むきっかけを与えている。関孝和(せきたかかず)や建部賢弘(たけべかたひろ)らは、第一系により数学者として大成したといってよい。[下平和夫]

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世界大百科事典内の遺題継承の言及

【塵劫記】より

…この小型3巻本はそれまでの内容を大きくあらため,また増補した部分も多いが,なかでも大きな特徴は,世間の数学者に挑戦する問題12問を巻末に掲載したことにある。この問題を遺題というが,12年後の53年(承応2)に,榎並和澄(えなみともすみ)はその著《参両録》の中で,《塵劫記》の遺題の一部に解答を示し,自己の出題8問を示し,ここに前者の解答と自己の出題を示すというリレー式の問答である遺題継承が始まった。遺題継承により江戸初期の数学はまたたくまに高度な数学になった。…

【和算】より

…榎並は,吉田の問題を批判し,自分ならもっとよい問題が提出できるとし,8問を巻末に付した。前者の問題(遺題)の解答を示し,自分も新たに出題する形式を遺題継承という。それ以後,多くの数学書が遺題継承の形式を採用している。…

※「遺題継承」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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