雅楽,舞楽,管絃の曲名。唐楽にふくまれ太食(たいしき)調。一人舞(ただし,左方舞と右方舞の2種類ある)の走舞(はしりまい)(童舞(どうぶ)として舞われることもある)。見蛇(けんだ)楽,還京楽ともいう。番舞(つがいまい)は《抜頭(ばとう)》(左方舞と右方舞がある)。赤色の恐ろしい顔の面をつけ,還城楽用の別装束(赤色裲襠(りようとう)装束)で,右手に桴(ばち)を持って舞う。舞の途中で,蛇持(管方の末席の者)が扇に木製の蛇を乗せて登台し,舞台の中央に置いていく。舞の後半はこの蛇を左手で捕らえて舞い続ける。唐の明皇(玄宗)が兵を挙げ,韋后(いこう)を討って京師に還ったときにこの曲が作られたとか,蛇を好んで食べる西夷の人が蛇を捕らえて喜び舞う姿を模倣してこの舞が作られたとか,いろいろな説がある。古くは,囀(さえずり)という舞人の唱える歌詞があったが,現在は伝わらない。演奏次第は,《小乱声(こらんじよう)》-乱序(笛は《陵王乱序》の追吹(おいぶき),舞人は出手(ずるて)を舞う。12段の出手のうち,9段のころ,蛇持が蛇を持って登場)-《還城楽音取》(三管同時に演奏する合音取(あわせねとり))-当曲(左方舞のときは,早只八拍子,拍子18,右方舞のときは,八多良八拍子,拍子18)-乱序(笛は《安摩乱声》の退吹(おめりぶき),舞人は8段の入手(いるて)を舞って退場)。演奏の次第は《陵王》と似ている。なお,右方舞として舞うときも伴奏は唐楽の楽器編成であり(ただ,羯鼓(かつこ)の代りに三ノ鼓を用いる),旋律も似ているが,拍子が異なり,舞の型が多少違う。また,童舞の時は蛇の代りに白紙を巻いた輪を用いる。
執筆者:加納 マリ
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雅楽の曲名。『見蛇(げんじゃ)楽』『還京楽』ともいう。唐楽曲、太食(たいしき)調、舞人1人による走舞で別装束。眉間(みけん)にこぶのある怪奇な面をつけ、左手は剣印という印を結び、右手には赤い桴(ばち)を持つ。同一楽曲で左方(唐楽)、右方(高麗(こま)楽)両方の舞がある珍しい曲で、前者は2拍と4拍の交互拍子(只(ただ)拍子)、後者は2拍と3拍の交互拍子(夜多羅(やたら)拍子)で舞う。全体は、(1)新楽乱声(しんがくらんじょう)、(2)陵王乱序、(3)還城楽音取(ねとり)、(4)当曲、(5)案摩(あま)乱声の5部分よりなり、陵王乱序には「蛇持ち」と称する人が舞台に木製の蛇を置き、これをみつけた舞人が飛び上がる有名な振(ふり)がある。当曲ではこの蛇を左手に持ち勇壮な舞を披露する。一説に、中国西域(せいいき)に住む野蛮人(胡(こ)人)が好物の蛇をみつけて喜ぶようすを舞にしたといわれる。奈良・興福寺の常楽会(2月15日)に古伝承がある。番舞(つがいまい)は『抜頭(ばとう)』など。
[橋本曜子]
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