還城楽(読み)ゲンジョウラク

デジタル大辞泉 「還城楽」の意味・読み・例文・類語

げんじょうらく〔ゲンジヤウラク〕【還城楽】

雅楽舞曲。唐楽。太食たいしき調で、古楽。舞は一人による走舞はしりまい。怪奇な面をつけ、ばちを持ち、作り物の蛇を捕らえて勇壮に舞う。一説に、西域の人が好物の蛇を見つけて喜ぶさまを写したものという。番舞つがいまい抜頭ばとうなど。見蛇げんじゃ楽。還京楽。

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精選版 日本国語大辞典 「還城楽」の意味・読み・例文・類語

げんじょうらくゲンジャウラク【還城楽】

  1. 雅楽。左方(唐楽)。太食(たいじき)調。古楽。一人舞。胡人の扮装(ふんそう)に朱の仮面をつけ、桴(ばち)を持ち作り物の蛇を捕えて舞う。見蛇楽(げんじゃがく)
    1. 還城楽〈信西古楽図〉
      還城楽〈信西古楽図〉

還城楽の語誌

唐の玄宗が韋皇后を誅して、夜半に城に帰還する姿を舞曲にしたものと言われるが、「教訓抄‐四」には、本来は「見蛇楽(げんじゃらく)」が正しく、蛇を捕えて食うさまを舞曲としたものであることが記されている。


かんじょうらくクヮンジャウラク【還城楽】

  1. げんじょうらく(還城楽)

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改訂新版 世界大百科事典 「還城楽」の意味・わかりやすい解説

還城楽 (げんじょうらく)

雅楽,舞楽管絃曲名唐楽にふくまれ太食(たいしき)調。一人舞(ただし,左方舞と右方舞の2種類ある)の走舞(はしりまい)(童舞(どうぶ)として舞われることもある)。見蛇(けんだ)楽,還京楽ともいう。番舞(つがいまい)は《抜頭(ばとう)》(左方舞と右方舞がある)。赤色の恐ろしい顔の面をつけ,還城楽用の別装束(赤色裲襠(りようとう)装束)で,右手に桴(ばち)を持って舞う。舞の途中で,蛇持(管方末席の者)が扇に木製の蛇を乗せて登台し,舞台の中央に置いていく。舞の後半はこの蛇を左手で捕らえて舞い続ける。唐の明皇(玄宗)が兵を挙げ,韋后(いこう)を討って京師に還ったときにこの曲が作られたとか,蛇を好んで食べる西夷の人が蛇を捕らえて喜び舞う姿を模倣してこの舞が作られたとか,いろいろな説がある。古くは,囀(さえずり)という舞人の唱える歌詞があったが,現在は伝わらない。演奏次第は,《小乱声(こらんじよう)》-乱序(笛は《陵王乱序》の追吹(おいぶき),舞人は出手(ずるて)を舞う。12段の出手のうち,9段のころ,蛇持が蛇を持って登場)-《還城楽音取》(三管同時に演奏する合音取(あわせねとり))-当曲(左方舞のときは,早只八拍子,拍子18,右方舞のときは,八多良八拍子,拍子18)-乱序(笛は《安摩乱声》の退吹(おめりぶき),舞人は8段の入手(いるて)を舞って退場)。演奏の次第は《陵王》と似ている。なお,右方舞として舞うときも伴奏は唐楽の楽器編成であり(ただ,羯鼓(かつこ)の代りに三ノ鼓を用いる),旋律も似ているが,拍子が異なり,舞の型が多少違う。また,童舞の時は蛇の代りに白紙を巻いた輪を用いる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「還城楽」の意味・わかりやすい解説

還城楽
げんじょうらく

雅楽の曲名。『見蛇(げんじゃ)楽』『還京楽』ともいう。唐楽曲、太食(たいしき)調、舞人1人による走舞で別装束。眉間(みけん)にこぶのある怪奇な面をつけ、左手は剣印という印を結び、右手には赤い桴(ばち)を持つ。同一楽曲で左方(唐楽)、右方(高麗(こま)楽)両方の舞がある珍しい曲で、前者は2拍と4拍の交互拍子(只(ただ)拍子)、後者は2拍と3拍の交互拍子(夜多羅(やたら)拍子)で舞う。全体は、(1)新楽乱声(しんがくらんじょう)、(2)陵王乱序、(3)還城楽音取(ねとり)、(4)当曲、(5)案摩(あま)乱声の5部分よりなり、陵王乱序には「蛇持ち」と称する人が舞台に木製の蛇を置き、これをみつけた舞人が飛び上がる有名な振(ふり)がある。当曲ではこの蛇を左手に持ち勇壮な舞を披露する。一説に、中国西域(せいいき)に住む野蛮人(胡(こ)人)が好物の蛇をみつけて喜ぶようすを舞にしたといわれる。奈良・興福寺の常楽会(2月15日)に古伝承がある。番舞(つがいまい)は『抜頭(ばとう)』など。

[橋本曜子]


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百科事典マイペディア 「還城楽」の意味・わかりやすい解説

還城楽【げんじょうらく】

雅楽の舞楽曲名。見蛇楽(けんじゃらく),還京楽などとも。太食(たいしき)調の唐楽であるが左方の舞のほか,右方の舞としても演じられる。胡人の扮装(ふんそう)による一人舞で,舞台中央に置かれた作り物のヘビのまわりを舞いながら回り,ついにそれを捕らえるという筋。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「還城楽」の意味・わかりやすい解説

還城楽
げんじょうらく

雅楽のなかの唐楽の曲名。当曲 (中心曲) は太食 (たいしき) 調の曲。『見蛇楽』『還京楽』ともいう。舞があり,1人で舞う。ヘビを好んで食べた西域の人が,ヘビを見つけて喜び勇んで持帰るという勇壮で躍動的な走舞に属する舞。まず太鼓の軽快なリズムに合せて登場し,ヘビを見つけそれを取ろうとしてヘビのまわりを回り,つかまえるさまを舞う。次に曲の中心部において,ヘビをつかまえて喜悦する躍動的な舞を舞い,再び太鼓のリズムを伴奏に退場する。舞人は裲襠 (りょうとう) 装束に奇怪な朱色の面をつけ,桴 (ばち) と金色のヘビを持つ。

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