雅楽の舞楽・管絃の曲名。唐楽の太食(たいしき)調。一人舞(ただし,左方舞と右方舞の2種類ある)で走舞(はしりまい)(童舞(どうぶ)として舞われることもある)。撥頭,鉢頭,髪頭,馬頭とも書く。別名《宗妃楽》。番舞(つがいまい)は《還城楽(げんじようらく)》。赤黒色で鼻が高く,糸製の頭髪をもつ恐ろしい顔の面をつけ,《抜頭》用の別装束(赤色の裲襠装束)で,右手に桴(ばち)を持ち,左手は握りこぶしの形で舞う。736年(天平8)に婆羅門(ばらもん)僧正や仏哲(ぶつてつ)などによって唐から伝えられたという。その由来については,中国の西域の音楽で,猛獣に殺された父親の仇を討とうと山野を探し求め,ついにそれを果たした胡人の姿を描いたもの,あるいは唐の后妃が嫉妬のあまり鬼になったというもの,あるいはインドの音楽にあらわれる毒蛇を殺す白馬の勇壮な姿をかたちどったものなど諸説がある。演奏次第は,〈林邑乱声(りんゆうらんじよう)〉(舞人登場,出手(ずるて)を舞う。笛は退吹(おめりぶき))-〈抜頭音取(ばとうのねとり)〉(三管同時に演奏する合音取(あわせねとり))-当曲(左方舞のときは,早只四拍子,拍子15,右方舞のときは,八多良四拍子,拍子15。当曲を演奏するうちに退場)。右方舞として舞うときも伴奏は唐楽の楽器編成であり(ただ,羯鼓(かつこ)の代りに三ノ鼓(さんのつづみ)を用いる),旋律も似ているが,拍子が異なり,舞の型も多少違う。童舞のときは面を用いず,頭に天冠をつけて舞う。なお,管絃曲としては早只四拍子で,管絃吹(かんげんぶき)という奏法で演奏される。
→舞楽面
執筆者:加納 マリ
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雅楽の曲名。「撥頭」「髪頭」とも書く。唐楽に属すが、只(ただ)拍子の左方の舞と夜多羅(やたら)拍子の右方の舞がある。いずれも1人の走舞(はしりまい)。もとは乞食(こつじき)調であったが現在では太食(たいしき)調。林邑(りんゆう)八楽の一つで、インド神話『リグ・ベーダ』にある馬の化身アシュビ神に由来するといわれる。異様な感情の高まりを表し、一説には西方胡(こ)国の人が猛獣に父を殺され、憤怒して仇(あだ)を討つさまを模すという。鎌倉時代の雅楽書『教訓抄』には、唐のある皇后が嫉妬(しっと)に狂い座敷牢(ろう)から鬼となって踊り出たさまを表すとある。舞中何度も「髪掻(か)く手」という所作がある。長髪鉤(かぎ)鼻で眉(まゆ)をつり上げた赤い面をつけ、毛べりの裲襠(りょうとう)を着し、短い桴(ばち)を持つ。「林邑乱声(らんじょう)」「抜頭音取(ねとり)」「当曲」からなり、舞人は入綾(いりあや)で退場する。番舞(つがいまい)は『還城楽(げんじょうらく)』。
[橋本曜子]
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