古代に朝廷で武官が着用した衣服の一種。また、舞楽装束に用いられる衣服の一種。養老(ようろう)の衣服令(りょう)で、礼服(らいふく)を着用するとき、衛府の督佐(とくさ)は繍(ぬいもの)の裲襠を、兵衛督(ひょうえのとく)は雲錦(うんきん)の裲襠を位襖(いおう)の上に加えよとある。朝服着用のとき、衛府の督佐は会集(えしゅう)の日などの日には、錦(にしき)の裲襠を位襖の上に加えることと定めている。令義解(りょうのぎげ)に「謂(いわく)、一片当背、一片当胸、故曰(ゆえにいう)裲襠也」とあり、裲襠はいわゆる貫頭衣で、布帛(ふはく)の中央に穴をあけて頭を通して着る衣服。『和名抄(わみょうしょう)』では「うちかけ」と訓じている。元来、上半身を保護する、鎧(よろい)に類する防具であったが、威儀を示すものとして、華やかな刺しゅうや織物を用いる衣服となったのであろう。また、天皇行幸の時、近衛(このえ)府に属する駕輿丁(かよちょう)(鳳輦(ほうれん)を担ぐ者)も布衫(ふさん)の上から丈の短い布製の襠を着た。
一方、舞楽装束の裲襠に2種がみられ、それぞれ舞の種類によって使い分けられている。一つは錦の地に金襴(きんらん)の縁をつけたもので、武舞に使用される。他は錦、金襴唐織(からおり)などの縁に生糸や麻糸の総(ふさ)飾りを巡らしたもので、もとは毛皮を用いたものであることを想像させる。これは、動作の激しい走舞(はしりまい)に使用される。平安時代の絵画資料として扇面古写経のなかに、同じく鎌倉時代のものとして『春日権現験記(かすがごんげんけんき)絵巻』に舞楽の裲襠装束がみられる。遺品資料として高野山(こうやさん)天野社に伝来した永和(えいわ)4年(1378)銘の紺地二重蔓牡丹(ぼたん)唐草文金襴のもの、および縹地輪違(はなだじわちがい)錦の裲襠裂地(きれじ)がある。
[高田倭男]
字通「裲」の項目を見る。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
古代の武官が着用した衣服の一種。〈衣服令〉の規定では,衛府督佐は繡を施した裲襠を,兵衛督は雲錦のものを,礼服着用の際につけるとある。また朝服条にも,衛府督佐は会集等の日には錦の裲襠を,朝服の上に着用する規定がある。文官の服制には裲襠の規定はなく,要するに武官の盛装用の衣料であろう。裲襠とは,衣服の後ろ身ごろを背中に,前身ごろを胸に,つまり背と腹の両方に当てるので裲襠という,とするのが,古くからの一致した解釈であり,《和名抄》では〈ウチカケ〉という訓を付している。本来は武人の胸と背を保護する防具として,革か金属で作られたものが儀仗用に着用されるようになって,豪華な織物で作ったり,刺繡(ししゆう)を施したりしたものが作られたのであろう。舞楽装束の裲襠は,室町期のものが現存するが,広幅の布の中央に,頭を通す孔をうがち,縁に総(ふさ)をめぐらせている。両脇は縫い綴じることなく,いわば貫頭衣の型式になっている。おそらく《西大寺資財帳》などに見える,古代の楽衣服の裲襠も,このような型式のものであったろう。
執筆者:武田 佐知子
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…古代の武官が着用した衣服の一種。〈衣服令〉の規定では,衛府督佐は繡を施した裲襠を,兵衛督は雲錦のものを,礼服着用の際につけるとある。また朝服条にも,衛府督佐は会集等の日には錦の裲襠を,朝服の上に着用する規定がある。…
…(3)別装束 個々の曲に固有の装束で,左方では,《散手(さんじゆ)》《抜頭(ばとう)》《陵王》《胡飲酒(こんじゆ)》《蘇莫者(そまくしや)》《還城楽(げんじようらく)》《打球楽(たぎゆうらく)》《青海波》《採桑老(さいそうろう)》《太平楽》等,右方では,《貴徳》《還城楽》《抜頭》《納曾利(なそり)》《八仙》《林歌(りんが)》《陪臚(ばいろ)》等が別装束を用いる。このうち《青海波》《太平楽》《採桑老》《八仙》《林歌》以外は裲襠(りようとう)装束といわれる古代の貫頭衣(かんとうい)で袍の上に着用し,毛縁(けべり)と金襴縁(きんらんべり)とがあり,毛縁は《散手》《抜頭》《陵王》《胡飲酒》《蘇莫者》《還城楽》《貴徳》《納曾利》で用い,赤,茶,黄,紺の元白の染め分けでできた毛(生絹)で縁どられており,胸と背にある2個ずつの丸紋の中には,《陵王》は竜,《納曾利》は鳥,《抜頭》《散手》等は唐花の図案化されたものがそれぞれ織り出されており,唐織物である。金襴縁は金襴で縁どりされており,《打球楽》《陪臚》は赤地錦,《狛桙(こまぼこ)》《垣破(はんなり)》は萌葱地錦である。…
※「裲襠」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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