改訂新版 世界大百科事典 「人工気候」の意味・わかりやすい解説
人工気候 (じんこうきこう)
artificial climate
広義には人間活動に伴って変えられた気候を指すが,狭義には特定の目的のために意図して変えられた気候をいう。人間の居住環境を,住みやすいように変える目的で,比較的狭い空間内の気候を改変しようとする試みは古くからされてきた。衣服による防寒(衣服気候),冷暖房による室内の気候調和(室内気候),温室などはその例である。
衣服気候は衣服と人体の皮膚の間のごく狭い空間に形成される気候で,気温約32℃,湿度約50%が適切な気候とされている。体温と外気温との差が10℃以上になると,生理機能だけでは順応できなくなるので,衣服によって体温の保持をはかる必要がある。衣服気候に類似したものに,寝床内気候がある。冷暖房による室内気候の調節も,近年は日本でも欠くことのできないものになっている。日本人の快適温度は,湿度50~75%の場合,夏は25℃,冬は20.5℃とされてきたが,近年暖房温度が上昇している。
人工的な気候改変は狭い空間ほど容易で,霜よけ,防風林,防霧林などもその例である。都市化によって生じる都市気候やヒートアイランドは,人間活動による気候変化であるが,人間が意図したものではない。近年,人間活動が大規模になるにつれて,大気中の二酸化炭素の濃度の増加のように,人間が気づかぬうちに,人為的な原因で地球の気候に影響を与える可能性がでてきた。
執筆者:河村 武
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報