酢酸菌によってエチルアルコールが酸化されてほぼ定量的に酢酸が生成する発酵現象で,発酵過程は
の2段階から成り,それぞれアルコール脱水素酵素,アルデヒド脱水素酵素の2種の酵素によって触媒される。この発酵の進行には空気中の酸素が不可欠であり,酵母によるアルコール発酵のように空気のない条件で起こる典型的な発酵現象とは性質を異にしている。古くから食酢醸造に利用されてきた。
酢酸菌はグラム染色陰性の杆菌で,生育に酸素の存在が不可欠な偏性好気性細菌であり,耐酸性が強く,エチルアルコールのほかにグルコースを酸化してグルコン酸を生成するなど,種々の糖・アルコール類からそれぞれの部分酸化物を生成する性質がある。酢酸発酵に用いられる代表的な酢酸菌はアセトバクター・アセティAcetobacter acetiで,日本酒の酒かす,ブドウ酒,リンゴ酒などエチルアルコールを含む原料からの食酢醸造に工業的に用いられている。
執筆者:別府 輝彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
酸化発酵の一種で、アルコールを好気的に酸化し、アセトアルデヒドを経て酢酸にする過程をいう。その反応は次のように表すことができる。
一般に、日本酒やビールなどを水で薄め、暖かい場所に静置すると、表面に白い皮膜ができ、酸味を帯びてくる。この皮膜は酢酸菌の集合体で、1879年にデンマークの植物学者ハンセンE. C. Hansen(1842―1909)により酢酸菌Acetobacter acetiとして分離された。酢酸菌は好気性細菌であり、酸素の豊富な液面でよく生育するばかりでなく、空気中の酸素を使ってアルコールを酢酸に変化させるため酸味を帯びてくる。酢酸菌の生育に最適な温度は20~30℃であり、基質であるアルコール濃度は5~10%の範囲内がよく、また、生成した酢酸濃度が10%以上になると菌は死滅する。食酢の醸造は酢酸発酵を工業的に応用したもので、アルコール発酵や乳酸発酵などとともに古くから知られていた。酢酸発酵はアセトバクター属細菌の混合菌により行われており、単独菌による純粋培養はほとんど普及していない。
このようにして発酵生産され熟成させた醸造酢は、主成分である酢酸のほかに、各種の有機酸、アミノ酸、糖などを含み、各種の食品加工に用いられる。
[伊藤菁莪]
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酢酸菌Bacterium acetiのアルコール脱水素酵素,アルデヒド脱水素酵素によるエタノールの酸化反応によって酢酸を製造する過程.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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