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酸化還元指示薬 さんかかんげんしじやく

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

酸化還元指示薬
さんかかんげんしじやく
oxidation-reduction indicator

酸化還元滴定に用いる指示薬をいう。指示薬自身が電子授受を行い、その酸化体と還元体の呈色が異なり、滴定に際し、酸化還元電位の変化にしたがい迅速に酸化または還元されることにより変色する物質である。硫酸酸性溶液中の鉄()イオンやシュウ酸の溶液を過マンガン酸イオンで滴定する場合は、当量点を過ぎると試薬自身のピンク色の着色がおこるので滴定の終点を知ることができるが、このように滴定剤自身が指示薬も兼ねる例はまれで、一般の酸化還元滴定では系に特有な指示薬を用いる必要がある。
 1MH2SO4中での鉄()とセリウム()との酸化還元反応の標準還元電位は
  Fe2++Ce4+Fe3++Ce3+
E°'Fe(III)/Fe(II)=0.68V、E°'Ce(IV)/Ce(III)=1.44V対NHE(normal hydrogen electrode標準水素電極)であり、当量点での電位EE=(E°'Fe(III)/Fe(II)E°'Ce(IV)/Ce(III))/2=1.06Vである。この溶液中でのフェロイン‐フェリイン系

(ただしphenは1,10-フェナントロリンを表す)の酸化還元電位は1.11Vであるから、フェロインを指示薬として溶液に少量加えて滴定すれば、当量点まではフェロインの赤色であるが、当量点を過ぎるとただちにフェリインの色になる。フェリインはこの程度の濃度ではほとんど無色であるから、フェロインはこの酸化還元滴定に最適な指示薬となる。図Aに1,10-フェナントロリン(phen)および、それと類似の構造をもつ2,2'-ビピリジン(bpy)の構造を示した。鉄()、鉄()はともにこれら配位子の3分子と結合してトリス(tris)錯体を生成する。すなわち下記の二つである。
  [Fe(phen)3]2+(tris-(1,10-phen)iron())
  [Fe(phen)3]3+
 鉄()をferro-、鉄()をferri-というので、これと1,10-phenanthrolineの語尾の-ineからeを取って、ferroin(フェロイン)およびferriin(フェリイン)とよぶ。広義には-N=C-C=N-型の配位基をフェロインferroineとよぶことがある。2,2'-ビピリジンもferroine型構造をとるので1,10-フェナントロリンと共通性がある。これも鉄()と強い赤色錯体([Fe(bpy)3]2+)を生成し、鉄()とは淡青色錯体([Fe(bpy)3]3+)を生成するので酸化還元指示薬となる。
 にいくつかの酸化還元指示薬の色とpH=0に対する酸化還元電位を示した。バリアミンブルーBvariamine blue B塩酸塩は無色であるが、容易に酸化されて酸化型はキノイド型構造の発色団(化合物が色をもつために必要と考えられている原子団)をもつ。青色の酸化型生成物は、pH1.5~6.3の範囲で可逆性の指示薬としてふるまう。pH2~3で鉄()を適当な還元剤で滴定するときや、いろいろなヨウ素滴定に利用される。ヨウ素に対する感度はデンプンと同程度である。
 図BにはバリアミンブルーB塩酸塩の構造を示した。鉄()により容易に酸化されて青色を呈する。呈色の原因はキノイド型構造による。
 酸化還元指示薬が応用された最初の例は、鉄()の二クロム酸塩(重クロム酸塩)による滴定
  6Fe2++Cr2O72-+14H+―→
   6Fe3++2Cr3++7H2O
におけるジフェニルアミンの利用である。ジフェニルアミンはまずN,N'-ジフェニルベンチジン(無色)に非可逆的に二量化され、ついで美しい紫色のN,N'-ジフェニルベンチジンバイオレットに酸化される。N,N'-ジフェニルベンチジンとN,N'-ジフェニルベンチジンバイオレットとの酸化還元は可逆である。これらの試薬の構造を図Cに示した。この例でも、呈色の原因は酸化型がキノイド型構造をとることによる。
 1MH2SO4中における鉄()と二クロム酸イオンとの酸化還元反応の当量点の電位は0.89Vで、この指示薬の酸化還元電位は0.76Vであるから、当量点の電位に比べて低いので、当量点より前で変色がおこる。この難点はジフェニルアミンスルホン酸を用いて当量点の電位に近づけるか、鉄()溶液にリン酸を加えて鉄()‐鉄()系の酸化還元電位を下げることにより避けられる。しかし一般に酸化還元指示薬は溶液組成が変化すると酸化還元電位が変化するので、滴定条件に制限があり、したがって酸塩基指示薬に比べてその種類は少ない。[成澤芳男]
『藤原鎮男監訳『コルトフ分析化学5 容量分析及び電気分析』(1975・広川書店) ▽渡辺啓・竹内敬人著『読み切り化学史』(1987・東京書籍) ▽日本分析化学会編『定量分析』(1994・朝倉書店) ▽奥谷忠雄他著『基礎教育 分析化学』(1995・東京教学社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典内の酸化還元指示薬の言及

【指示薬】より

…このように酸や塩基の中和を知るために用いるものを酸塩基指示薬という。酸化還元反応においては,それ自身が電子の授受によって変色する酸化還元指示薬を,沈殿滴定においては沈殿に吸着して変化する吸着指示薬adsorption indicatorを用いる。キレート滴定では,金属イオンと結合することにより変色する金属指示薬metal indicatorが用いられる。…

※「酸化還元指示薬」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト世界大百科事典 第2版について | 情報

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