重力の主成分は地球を構成する物質に起因する万有引力であり,万有引力の法則からわかるように測定点に近い物質ほど引力として強い影響を与えるのであるから,重力の測定値は測定点近傍の地下構造に左右される。地下構造に起因する重力値の過大(小)を重力異常という。過大(小)とは正規重力(重力)に比較してのことである。
重力異常を求めるには測定値に二,三の補正を加えなくてはならない。まず,通常地表にある測定点における測定重力は周囲の地形による引力を含んでいる。たとえば,山岳部で測定点より標高の高い部分の山体は測定点に上向きの引力を及ぼしているので,その分だけ測定重力値は小さめであろう。同様に,測定点より標高の低い部分の峡谷のような地形は平たんな地形に比べ下方が質量不足であるから,その分だけ下向きの引力が少ない。上方の山体と同様,下方の峡谷は重力値を減少させる。このような地形の影響は測定点ごとに異なるので取り除かなくてはならない。この操作を地形補正という。補正量は険しい山岳地帯で大きくなるが,最大でも10mGalをこすことは多くはない。上の説明でわかるように,地形補正は地形のいかんにかかわらずつねに正である。地形補正を加えると重力値は,測定点が平たんな地形上に位置したと同等な場合の値を示すことになる。
万有引力は地球の中心から遠ざかるにつれて減少するから,測定点の標高の高低によって重力値が変化する。重力を正規重力と比較して重力異常を求めるので,測定点の標高に応ずる正規重力を知る必要がある。高さの変化に対し正規重力は0.3086mGal/mの割合で変化する。この割合は地球上どこでもほぼ一定なので,この係数に測定点の標高を乗じて標高に応ずる補正量とする。これをフリーエアfreeair補正といい,測定重力値と正規重力にフリーエア補正を加えた量との差をフリーエア異常という。またこれらをそれぞれ高度補正,高度異常ということもある。
⊿gF=g+δg-(γ-0.3086H)
フリーエア異常は上式のように表される。gは測定重力値,δgは地形補正,γは測定点の緯度に対応する正規重力,Hはm単位で表した測定点の標高,重力値はmGal単位。この重力異常は標高との相関が強いので,その分布がわかっている地域内で重力測定を簡易水準測量として利用できる。また,重力の分布から地球の細かい形状であるジオイドの凹凸を求めることができるが,その場合,使われる重力異常はこのフリーエア異常である。次に述べるブーゲー異常では,それを求める手続きの中で多量の地殻質量の影響を除去するので,現実のジオイドの形を反映しなくなってしまうのである。
特定の基準面(通常はジオイド)以深の地下構造を重力のデータから知ろうとする場合はブーゲーBouguer異常と呼ばれる重力異常が使われる。この重力異常は,測定点とジオイドの間に存在する岩石の引力を測定重力値から取り除き,露出したジオイド面上で重力測定を実行した場合に得られるであろう重力値と正規重力との差である。先に説明したように,測定重力値に地形補正を加えると得られる重力値は,平たんな地形上で得られる重力値と等価になる。厚さh(標高)の水平な平板の引力は2πGρhに等しいことが知られているので,この量を測定値から減ずる(これをブーゲー補正という)。ここにπは円周率,Gは万有引力定数(6.672×10⁻11Nm2/kg2),ρは岩石の密度(通常2.67×103kg/m3),hの単位はmである。この操作により,重力値はあたかも高さhの空中で測定して得られたかのような値を示す。これに先のフリーエア補正を加えてから正規重力を減ずればブーゲー異常が求まる。
⊿gB=g+δg-2πGρh+0.3086h-γ
このようにして得られたブーゲー異常はジオイドより下層の地下構造を反映したものである。地下の岩石の密度の大きい所ではブーゲー異常は正となり,密度の小さい地層の所では負の異常を示す。アイソスタシーの成り立っている山岳地帯では,密度の小さい山岳の根が地下深部にまで達していることを反映して,ブーゲー異常が強い負の値を示す。
ブーゲー異常の分布は地下の密度分布を反映したものであるから,物理探鉱の有力な手段になる。金属鉱床は高密度岩石でできているから正のブーゲー異常を示すであろうし,石油鉱床は岩塩ドームに付随して存在することがしばしばあるが,岩塩ドームは低密度で負のブーゲー異常を示す。
ブーゲー異常を求める手順を図1に,また地下構造とブーゲー異常との関係の一例を図2に示した。
執筆者:村田 一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
重力の実測値の標準重力値からのずれ。標準重力とは、自転する地球楕円(だえん)体上での重力のことで、赤道上で最小、両極上で最大となるような緯度の関数で表される。現在広く用いられている標準重力の式は、1979年に国際測地学地球物理学連合(IUGG)の総会で採用が決められたもので、正規重力式とよばれる。実際の重力測定は高度の異なる点で行われるので、重力異常にはいくつかの補正が必要である。このうち、フリーエア補正は、高度による地球の引力の違いを、ジオイドなど同一の基準面上の値に引き戻すことで取り除くもので、この補正を加えた重力異常をフリーエア異常とよぶ。ブーゲー補正は、観測点と基準面間の物質の引力の影響を除くもので、この補正は、観測点付近の地形も考慮して地形補正とともに計算されることが多い。フリーエア異常にブーゲー補正を加えたものがブーゲー異常である。重力異常の変化は地下の密度分布を反映したものであり、地下資源探査や地下構造研究の基礎資料として重要である。しかし、重力異常の解析だけからでは、地下構造が一義的に決まらないことが多く、人工地震などの資料とあわせて解析されるのが普通である。人工地震により推定された地殻構造から理論的な重力異常を計算してみると、実測値との間に有意な差の認められることがあり、上部マントル構造の地域性が反映したものと考えられている。
[吉井敏尅]
『河野芳輝・古瀬慶博著『日本列島重力異常図』(1989・東京大学出版会)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…今日,地震波の伝わり方や人工地震の実験から得られる知見によれば,エアリーのモデルが実際の姿に近い。 アイソスタシーが成立すると,山地においてブーゲー異常(重力異常)は負の値をとる。ブーゲー異常⊿gと山の高さHとの間には,およそ⊿g=a-bHの関係がある。…
…JGSN75に含まれる重力点のうち,重力値が最大なのは稚内の980622.73mGalであり,最小は石垣島の979006.06mGalである。
[重力異常と地殻構造]
重力実測値を正規重力値と比較して各地点の重力値が過大であるか過小であるかを知ることができる。この過大(小)量を重力異常という。…
※「重力異常」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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