日本大百科全書(ニッポニカ)「人工地震」の解説
人工地震
じんこうじしん
人工的におこす地震、また、人工的に地震をおこし、そこから出た地震の波の伝わり方を観測して、地球の内部を調べる方法。地球の内部は電波もX線も通らないので、内部を自由に通過するのは地震波以外にはない。地下数メートルの地下構造を調べるための小規模なものから、地下数百キロメートルといった地球深部を研究するような大規模なものまである。前者は、建物や橋やダムなどの構造物の地盤調査や、地下資源の探査などに用いられる。地下数キロメートルまでのものは、石油などの地下資源や地熱探査、それに地球物理学の研究に利用される。それより深いものは、もっぱら地震学、地球物理学上などの研究用である。
人工地震には多くの方法があるが、大別すると反射法と屈折法とがある。また、震源に何を使用するかによる分類もある。反射法は、鉛直に近い急な角度で、地震の波を地下に送り込み、それぞれの地層から反射して返ってくる地震の波を記録して地下構造を求める。屈折法では、地下のそれぞれの層内を、かなりの距離まで伝わったあと、地表にまで出てくる地震の波を記録して地下構造を求める。送り込むべき地震のエネルギーや得られる地下構造の性質や精度などに得失があり、最適の方法が使われる。
一方、震源としては、火薬が多く使われたが、環境問題もあって1980年代以降は下火になり、錘(おもり)を振動させたり、空気を圧縮して急激に膨張させたりする、非爆発性の震源が広く使われるようになった。これら新しい人工震源は、発生する地震の波を精密に制御することが可能なので正確な繰り返しができ、記録された地震波を重ね合わせて強めることによって、地下構造を精度よく調べるのに適している。
海底下の地下構造を調べることは石油など地下資源の探査や地球物理学研究のために重要である。地下資源の探査には、エアガン(圧搾空気を使った人工震源)とハイドロフォン(水中の地震波をとらえる圧力センサー)を船で曳航(えいこう)しながら、海底下数キロメートルまでの地下構造を反射法で連続的に調査する。一方、もっと深い地下構造を精度よく研究することは海底地震計が開発されて初めて可能になった。1980年代からは人工震源にエアガンを用いて、200キロメートルくらい先の海底地震計まで屈折波を届かせ、海底下60キロメートルくらいまでの地層を研究する手法が日本で開発され、世界各地で地球物理学研究のために広く使われるようになっている。
なお、ダムや地下への液体の圧入や、地下資源の採掘に伴って地震がおきることが近年知られており、これらは人工地震ではなく、誘発地震といわれる。
[島村英紀]
『池上良平著『震源を求めて――近代地震学への歩み』(1987・平凡社)』▽『島村英紀著『地球の腹と胸の内――地震研究の最前線と冒険譚』(1988・情報センター出版局)』▽『ブルース・A・ボルト著、金沢敏彦訳『地震』(1997・東京化学同人)』