改訂新版 世界大百科事典 「金属工学」の意味・わかりやすい解説
金属工学 (きんぞくこうがく)
metallurgy
実用性のある金属材料を製造するための科学と技術を対象とする学問。金属という人類のもつ文明の柱となる材料を対象とするだけに,古代の青銅器の時代から現代の素材革命の時代に至るまで,終始一貫してその時代の最先端の科学の母体であると同時に,科学の成果を技術に生かしてきたという歴史をもっている。金属工学が育ててきた知識や手法は半導体材料,有機高分子材料,セラミック材料の学問にとっても手本となっており,現在ではこれらの材料を包含した材料工学の中心となっている。金属材料は古代にあっては宝飾,祭器,什器,武器などの器物に使われ,次いで工具,農具などの生産用の道具に用いられた。産業革命を主導したのちには建造物,構造物など現代文明を支える材料の中心となり,現在では新しい素材革命の担い手として超電導材料,エネルギー貯蔵材料,情報デバイス用材料など機能材料分野を支えている。
このような金属の利用の長い歴史のなかにあって,生産量の増加と用途の拡大,それに伴う製造法や性質の改良に関する知識と方法を積み上げてきており,材料の原料から使用に至る一貫した体系をもった学問を形成するに至った。現在では材料設計が一つの課題である。すなわち特定の要求性能を満たす材料を提供するために,材料の組成,加工方法,熱処理方法,表面処理方法を決定し,寿命を保証する防食手段を講ずるための一連の手法を総合することである。金属工学では,製錬における微量不純物の制御から溶解鋳造,変形加工における組織の変化,さらに強度,疲労,腐食といった使用技術に至る一貫した技術と,その背後にある電子構造,結晶構造,粒界構造,転位構造,組織構造などに関する基礎科学と,長い歴史に支えられた豊富な知識と経験の3者が融合して研究が進められている。
→冶金
執筆者:増子 昇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報