利器の材料に金属が用いられてはいても、石製の利器がまだ併用されている時代をいう。ヨーロッパの考古学者は19世紀の末に、こうした時代を表す語としてeneolithic(ラテン語の銅・青銅aeneus+ギリシア語の新石器neo-lithos)――つまり銅・新石器時代――の語を用いたが、それはギリシア語とラテン語の合成語であると反対した学者たちは、chalcolithic(ギリシア語の銅・青銅chalkos+ギリシア語の石lithos)――つまり銅・石器時代――の語を提唱した。しかし周辺諸地域では実用の利器の材料として石の次に銅ないし青銅が用いられず、ただちに鉄が使われる場合がみられる。日本の弥生(やよい)時代に例をとると、実用の利器にはもっぱら鉄が使用され、銅・青銅は象徴的な器具、宝器、装身具(鏡を含めた)などの財に用いられた。銅鏃(どうぞく)などもあるが、原料が量的に限られていたため、その使用も限られていた。三時代法のたてまえからすれば弥生時代は初期の鉄器時代に該当しており、石製の利器も広く行われていた。この事実を知悉(ちしつ)していた浜田耕作は、eneolithic, chalcolithicの語を「金石併用時代」と意訳した。浜田の意訳は、この術語に関する限り、きわめて適切であった。
時代と時代との間に過渡期が存することを認める学者で、かつ三時代法に依拠する人は、金石併用時代の存在を肯定している。しかし、このような過渡的な時代を認めず、それを新石器時代末期または銅器時代初期(日本の場合には鉄器時代初期)とみなす学者も多い。いずれの場合でも、肯定論、否定論とも、三時代法の延長線上にたっている。学問の世界では、ある用語をそれが便利だからといって認めることは便宜主義に流れるものとして批判される。その意味では、この「金石併用時代」といった概念は、明日の歴史学のためにも厳しく批判さるべき存在といえよう。
[角田文衛]
『角田文衞著『古代学序説』(初版・1954/増訂版・1972・山川出版社)』▽『G. DanielA Short History of Archaeology (1981, London)』▽『『世界考古学大系第12巻 ヨーロッパ・アフリカI』(1961・平凡社)』
ギリシア語のchalkos(銅)とlithos(石)の合成語で,石器時代と青銅器時代の中間の時代をさす。たんに銅器時代ともいう。銅の利用は大変古くさかのぼり,今から8000年ほど前にさかのぼる例が,小アジアとイランで知られている。最初は自然銅を打ち延ばしただけのものから出発し,クジャク石などの銅鉱を溶解し,鋳型を用いて鋳造の銅器をつくり,やがてスズとの合金の青銅器を生むに至ったとみられる。しかし,実際上は発掘で得た銅器,青銅器を以上のどの段階の技術のものであるのか,見きわめるのは大変難しい。そこで,銅器が出現していても,いぜん石器が多量に使われている時代,ないしは銅器がなくても,石器が金属器をまねて造られている時代を金石併用時代と呼んでいる。この時代の銅器は,前の新石器時代の利器の形になぞらえて造られており,金属の特性が十分に発揮されていないところに特徴がある。例えば,この時代には斧や槍で,刃の下に柄をつけるための袋を特別に造り出したものは,まだ出現していない。金石併用時代は,石器から青銅器へ移行する過渡期に対してつけられた名前であるので,この用語と概念を否定する意見も強い。しかし,もともと利器の素材を基準にして,時代一般を分類することに問題があり,望ましいのは固有の文化名をつけることである。小アジアでは金石併用時代は数千年続くが,むしろ遺跡名をもって金石併用時代を区分することにしており,この用語は文化を比較する場合には用いられない。インダス文明も金石併用時代として扱われるが,すでに都市や文字が出現しており,オリエントでは青銅器時代に相当する。金石併用時代という用語が意味する内容は地域によって大変違っているが,要するにその地域に最初に金属器が導入された段階をさすにすぎない。
執筆者:中村 友博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
銅石時代とも。Chalcolithic Ageの訳語。正しくは石と銅が道具や武器のおもな素材である時代。日本では石器時代と青銅器時代の中間の時代ととらえられ,石と青銅が道具や武器の材料として使用された弥生時代,あるいは朝鮮半島のある時期を金石併用時代とよんだ。現在はこの考え方は誤りとされ,日本では使用されることは少ない。ヨーロッパやロシアの研究者は今でもこの用語を使用することがある。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
…一方,弥生時代には青銅器と鉄器とが石器と併用して作られ使用された。このためにかつては金石併用時代ともよばれ,ヨーロッパのように石器,青銅器,鉄器というように各時代が継起して発展するようなことはなく,石器時代の終末期にあたる弥生時代には青銅器と鉄器とが石器とともに併用されたのである。これは中国,朝鮮ですでに発達していた青銅器文化,鉄器文化が弥生時代にあいついで渡来し,重層的に日本列島内で使用されたためである。…
※「金石併用時代」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新