銅が使われ始めた時代を銅器時代という。考古学が用いる時代区分の用語で,金石併用時代と同じ意味である。新石器時代と青銅器時代のあいだが,前後と区分できる独立した文化相をもつ場合にこの用語が用いられる。青銅は,銅とスズとを溶解して鋳造する合金であるから,石器時代から青銅器時代に直接移行することはありえず,その前に銅鉱石だけが利用されていた時期があるはずである。実際に古い金属器を分析してみると,スズの成分が低く,ほとんど銅だけで仕上がっているものがある。このことから,銅器時代が設定されたが,この時代を認めない反対意見もある。中国の銅器は,青銅器と同じ時期に作成されたもので,銅器時代の考えは否定されている。これに対し,ヨーロッパでは銅器時代が,新石器時代とも青銅器時代とも違う時代であったことが認められている。この時代の銅器には,自然銅をうち延ばしたものから,スズ分をふくむものまであるが,スズが青銅をつくるために意識的に入れられたのか,それとももとの銅鉱石に夾雑していたのかを区別することは難しい。そこでヨーロッパでは,青銅器の本格的な生産がなされる以前の最古期の金属器の文化を銅器時代と汎称している。
銅鉱山の多いトランシルバニア地方では,ほとんど銅からなる斧が生産され,周辺に広まっている。刃の反対側を金鎚として使うところから,ハンマー・アックスと呼ばれる。チェコスロバキア,ハンガリー,ルーマニア,ブルガリアにこの斧は広がっているが,東と北の草原地帯にも石でできたハンマー・アックスが分布しており,闘斧と呼ばれる。金の生産もこの時代に始まっており,薄板を加工して装身具や護符に仕上げている。ブルガリアのバルナから出土した〈バルナ遺宝〉はとくに有名である。金製品を副葬した墓でも,単独の埋葬でなく,集団墓地のなかにある。このことから階級が発生する以前の首長制の段階の社会であったのではないかとみられる。このような文化として,チェコスロバキアとハンガリーにはティサポルガー文化とボドログケレスツーア文化,ルーマニアとブルガリアにはグメルニツァ文化とサルキュツァ文化がある。以上の文化の年代は,炭素14法では,前5千年紀の前半にまでさかのぼり,このことからヨーロッパで最初の金属器文明が成立したとみなす意見もある。また鉱山の開発は独自になされたが,鋳造や金工の技術はエーゲやアナトリアから伝わったとの考えもあり,この見方によれば,銅器時代の始まりは前3000年よりは古くならないことになる。
西欧と中欧の初期の金属器文化は,かたちが釣鐘に似ているところからベル・ビーカーと呼ばれる独特の土器をもつ。この土器は,まれに銅ないし青銅の武器,装身具を伴う。斧は銅製のハンマー・アックスではなく,フリント製の磨製石斧である。ベル・ビーカー土器は独特の武器を伴い,分布も広いところから,好戦,侵略的な性格をもつ文化であるとみられている。新石器時代の定住した農耕生活と比べて,銅器時代は家畜による遊牧の比重が高く,そのため良好な層位をなす遺跡が少ない。文化の流れは,全体として東から西への伝播がうかがえ,ヨーロッパにインド・ヨーロッパ語系の民族が侵入してきたのも古く,この時期までさかのぼるとする説がある。西欧と中欧の銅器時代の開始が,東欧と比べて1000年ほど遅いのは,新しく金属器を伴う民族が西漸するのに時間がかかったためと説かれている。ヨーロッパの考古学では,インド・ヨーロッパ語系の民族の成立と銅器時代の設定とが密接に関連した問題としてとらえられているが,このことはまだ未証明の仮説である。
執筆者:中村 友博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…【柳田 充弘】
【銅の技術史】
人類の歴史に初めて金属が登場するのは,自然金の砂金であり,続いて自然銅が使われはじめた。自然銅の使用によって,石器時代から銅器時代に入るが,一方では,金石併用時代あるいは銅石時代と表現されるごとく,石器と銅器がともに使用された時代であった。最初の自然金属としての砂金は,漂砂鉱床として元の金鉱床生成の位置から離れた場所に堆積したものを採集したが,自然銅はほとんどが,その生成した銅鉱床の地表,露頭部分に存在している。…
※「銅器時代」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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