中国,隋・唐の史書で,北アジア,中央アジアの遊牧トルコ系諸族Türkに対して用いられた総称。紀元後から丁零(ていれい),勅勒(ちよくろく)と呼ばれた北アジアのトルコ族の系譜をひく。その後のモンゴル高原の高車丁零,また5世紀末にジュンガル盆地に自立した高車を直接の母体の一つとみることができる。この頃から多くのトルコ諸族は西方に移動し,6世紀初めに高車が滅びた後,隋代の中国人は,中央ユーラシアの草原地帯に広く散開していたトルコ諸族をこの名で呼んだ。その範囲は,バイカル湖の南とトラ川の北方を東端とし,アルタイ山脈の南西麓からジュンガル盆地,天山山脈一帯に及び,アラル海,カスピ海を西端とする。彼らの中から突厥(とつくつ)を建国した阿史那氏も出た。突厥時代の鉄勒諸部の中では薛延陀(せつえんだ)が有力で,630年には唐と共に突厥を滅ぼしたが,やがて唐の羈縻(きび)支配をうけた。また中国史料では,主要な9部族をさし,〈九姓鉄勒〉と呼んだ。諸部は682年の突厥の復興に伴ってこれに統合され,鉄勒の名称は単独ではほとんど現れなくなる。これはトルコ諸族の実体をさす名称が変化していったものと思われる。しかし,鉄勒を構成していた諸部族の名称はなお用いられた。
執筆者:梅村 坦
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隋(ずい)・唐代の中国人が突厥(とっけつ)以外のトルコ(チュルク)系諸部族をよんだ総称。丁零(ていれい)、高車の後身。チュルクTürükの音写であろう。今日トルコ系民族をTürkというが、これはTürükの語が短縮されたものである。隋代にはバイカル湖の南からアラル海、カスピ海の北にわたる地域に分布していた。突厥に征服されたが、その一部族薛延陀(せつえんだ)が唐軍と協力して東突厥を一時瓦解(がかい)させた(630)。しかし、唐に討たれ(646)、六都督府、七刺史州に分けられて唐の羈縻(きび)支配を受けた。東突厥の復興(682)とともに唐から独立して東突厥に服属したが、その一部族ウイグルが東突厥を滅ぼした(744)。
[護 雅夫]
『護雅夫著『古代遊牧帝国』(中公新書)』
南北朝末期から唐時代の中国人が突厥(とっけつ)以外のトルコ族(Türk)を呼んだ総称。丁零(ていれい),高車(こうしゃ)の後身。隋代にはバイカル湖南からソグディアナの北,アラル海,カスピ海にわたる広大な地域に分布していた。突厥が興るとモンゴリア,アルタイ,天山地方のものはこれに服属したが,その一部族薛延陀(せつえんだ)が中心となって唐軍と協力して東突厥を一時瓦解させ(630年),モンゴリアに独立した。しかし,唐に滅ぼされ(646年),6府7州に分けられて唐の羈縻(きび)支配を受けた。東突厥の復興(682年)とともにこれに服したが,やがてその一部族ウイグルは突厥に代わって建国した。
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…アラブ史料ではグズGhuzz。古くは広義の鉄勒(てつろく)(テュルク)の一部分を構成し,突厥(とつくつ)時代以後,狭義の鉄勒の名称となった。その活動範囲は広く,アルタイ山脈周辺から,西方はカスピ海以西に及ぶ。…
…中国文献によると,丁零は,はじめ匈奴に従属したが,後1世紀,匈奴の衰退に乗じてその支配下を脱し,2~3世紀,鮮卑の台頭の時代には,その北方(おそらく外モンゴリア)に居住して勢力を蓄え,3世紀前半,鮮卑が解体すると,〈高車丁零〉(〈高輪の車を使用する丁零〉)としてモンゴリアの支配権を獲得,4世紀半ばには,少なくとも人口10余万,馬13万匹,牛・羊億余万を擁する強大な〈丁零勅勒〉として中国文献に登場する。ここに見える〈勅勒〉が,後代の史料に見える〈鉄勒〉〈突厥〉と同様,〈チュルク〉すなわち〈トルコ〉の音を写したものであることはまず誤りなく,したがって〈丁零勅勒〉とは〈丁零トルコ族〉の意味と解される。高車丁零は5世紀初頭,新たに勃興した柔然の支配下に組み入れられたが,5世紀末,柔然が衰えると,その一部は西方のジュンガル盆地に移動して,高車国を建設した。…
※「鉄勒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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