鉢かづき(読み)ハチカズキ

デジタル大辞泉 「鉢かづき」の意味・読み・例文・類語

はちかずき〔ハチかづき〕【鉢かづき】

御伽草子23編の一。2巻。作者未詳。室町時代成立とされる。母の臨終に鉢を頭にかぶせられた娘が継母のために家を追われるが、その鉢によって幸せになる話。継母説話長谷観音の霊験たんを絡ませたもの。

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精選版 日本国語大辞典 「鉢かづき」の意味・読み・例文・類語

はちかずきハチかづき【鉢かづき】

  1. 御伽草子二三編の一つ。二冊または三冊。作者不詳。室町時代末の成立。臨終の母に鉢をかぶせられた娘が継母にいじめられて家出し、入水したり、火たきに身をやつしたりするが、そのつど鉢の力によって窮地を脱出し、ついに結婚して幸福になるという話。継子いじめを主題にし長谷観音霊験譚をからませている。民間説話の「姥皮」を素材とする。鉢かずきの草子。鉢かずきさいしょうの君。

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改訂新版 世界大百科事典 「鉢かづき」の意味・わかりやすい解説

鉢かづき (はちかづき)

御伽草子。渋川版の一。河内国交野(かたの)に住む備中守さねたかは姫君を一人儲(もう)け,長谷(はせ)の観音に参り,末繁昌を祈る。姫が13歳のおりに,母は病気にかかり,姫の頭に手箱を載せ,その上に肩が隠れるほどの鉢をかぶせて死んだ。父はその鉢を取ろうとするが,頭に吸い着いて取ることができない。継母に憎まれ,帷子(かたびら)一つで捨てられた姫は,足にまかせて迷い歩き,川へ身を投げるが沈まず,里人から化物とあざけられながら,国司の山蔭三位中将のもとに身を寄せ,能がないと言われて,湯殿の火焚きとなる。中将殿の四番目の御子宰相殿の御曹司に見そめられ,比翼連理の契りをかわす。母はこれを知り,公達(きんだち)の嫁くらべをして恥をかかせようとするので,宰相殿と鉢かづきとが家を出ることとなるが,そのとき,頭上の鉢がかっぱと前に落ち,数々の宝物がこぼれ出て,姫は美しい姿を現す。うるわしく着飾った姫は3人の嫁御前とともに嫁くらべに臨み,和歌・管絃また書などをみごとに披露し,宰相殿も喜び面目を施す。宰相殿の両親にも認められた姫は,宰相殿の御所に移り住む。一門を率いて宰相殿が長谷の観音に詣でると,修行者となり果てて来合わせた父と再会,一門ともに栄えた。〈被(かづ)く〉は,すっぽりと頭にかぶるの意。民間説話〈姥皮(うばかわ)〉,西欧のシンデレラ灰かぶり姫)型の話の趣向を取り入れ,長谷観音の利生譚に仕立ててある。室町末期の写本をはじめ,伝本も多く,十数首の和歌を含む。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鉢かづき」の意味・わかりやすい解説

鉢かづき
はちかづき

御伽(おとぎ)草子23編の一つ。室町時代に成立したとされる物語。作者未詳。「鉢かづきの草子」とも記されて江戸期版本として流布した。明治以後の童話では「鉢かつぎ」ともいわれる。河内(かわち)国交野(かたの)に住む備中守(びっちゅうのかみ)さねかたの娘を主人公にした継子(ままこ)物語。実母が死に臨んで娘の頭に鉢をかぶせたことによる名称である。「鉢かづきの宰相」とも記される。娘は鉢をかづ(被)いたまま成長し、父の再婚によって継母に会う。継母の讒言(ざんげん)によって捨てられて流浪の身になる。やがて山陰三位(さんみ)中将の家で湯殿の火焚(ひた)きとして働くうちに、四男宰相にみいだされて契りをこめる。嫁見参、嫁競(くら)べのときに鉢が割れて、中から衣装や宝が出る。主人公はそれで身なりを整え、宰相の妻としての幸福な一生を約束されるという筋。鉢かづきは、つねに長谷(はせ)観音によって加護される霊験譚(たん)としてつづられる。これらの主題は、民間にあって昔話として人口に膾炙(かいしゃ)する。本格昔話「姥皮(うばかわ)」と共通する語り口で、異形の被(かぶ)り物をした主人公の苦難と、やがて訪れる幸福な結婚を骨子にする。物語の展開に大きな意味をもつ鉢は、呪具(じゅぐ)として主人公の運命に大きな役割を果たしている。とりわけ、主人公の成女戒にかかわる、呪術的・宗教的意義を重ねることによって、この主題を解こうとする見方もなされる。伝承伝播(でんぱ)の背景には、観音信仰の教化活動も考えられる。

[野村純一]


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山川 日本史小辞典 改訂新版 「鉢かづき」の解説

鉢かづき
はちかずき

室町物語の公家物。昔話「姥皮(うばかわ)」説話をもとにした観音霊験譚。作者不詳。室町時代に成立。「御伽草子」の一編。河内国交野(かたの)の備中守実高は,長谷観音に願をかけ姫を授かる。姫が13歳のとき母は病にかかり,死の間際に姫に鉢をかぶせる。継母に憎まれ野に捨てられた姫は,中将家の湯殿の火焚きに雇われる。中将の4番目の子宰相は姫を見初め契りを結ぶが,宰相の母親は2人をわかれさせようと嫁くらべを行う。2人が悲嘆にくれていると鉢が落ちて美しい容貌が現れ,衣装など宝がでてくる。姫は嫁くらべに勝ち,宰相は惣領となる。のち宰相と長谷観音に詣でた姫は,修行者となっていた父実高と再会する。「日本古典文学全集」所収。

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百科事典マイペディア 「鉢かづき」の意味・わかりやすい解説

鉢かづき【はちかづき】

御伽(おとぎ)草子,渋川版23編の一つ。室町時代成立。母の死に際し鉢をかぶせられた姫が継母に虐待されて家出するが,結局その鉢によって幸福を得るという話。中世の継子話の代表作で,長谷寺観音の霊験譚にしたててある。
→関連項目シンデレラ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鉢かづき」の意味・わかりやすい解説

鉢かづき
はちかづき

室町時代の御伽草子。2巻。作者,成立年未詳。母の臨終に鉢をかぶせられた備中守藤原実高の姫が,継母に憎まれて家出し,山蔭の三位中将の風呂番をするうちに,その末子の宰相殿と相思の仲となり,嫁比べの前夜,鉢がとれて金銀宝物を得,幸福に暮らす話。『住吉物語』とともに中世継子物 (→継子話 ) の代表作。長谷観音の利益が強調されている。類似の話としてシンデレラがある。

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旺文社日本史事典 三訂版 「鉢かづき」の解説

鉢かづき
はちかづき

室町時代の御伽 (おとぎ) 草子
2巻。作者不詳。継子いじめ物語で,鉢を頭からかぶせられた姫の流浪を描く。

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