価値尺度機能を営む貨幣商品が、金ではなく銀であり、銀貨が自由鋳造を認められた本位貨幣・無制限法貨であるような貨幣制度をさす。近代的な貨幣制度の確立は、19世紀後半における金本位制度の世界的普及によって実現されるが、それまでは銀本位制度または金銀複本位制度が一般的であった。最初に銀本位制度を放棄したのは資本主義の先進国であるイギリスであった。これに追随してドイツが1871年に本位銀貨の自由鋳造を禁止した。その後複本位制度をとっていた国も、1873年にアメリカ、1876年にはフランスを中心とするラテン貨幣同盟諸国が同様の措置に踏み切り、銀の貨幣廃位は世界的傾向となった。その結果、本位銀貨の売却および貨幣用銀需要の激減が生じ、他方、世界の銀産出額の増加と銀生産費の顕著な低下も加わって、銀価の低落が世界的傾向となった。1873年(ドイツが金本位制度採用)以前の金銀比価はおよそ金1対銀16であったが、1897年(日本が金本位制度採用)には1対34にまで低下したのである。このような19世紀後半における銀価低落は、銀本位制度維持国(典型例はアジア諸国)に複雑な影響を与えることになった。すなわち、銀価低落、為替(かわせ)相場下落による輸出の刺激、輸入の抑制は好景気を招来するが、やがて為替相場下落による輸入品の国内価格騰貴ひいては国内物価の騰貴をもたらし、輸出商品価格の割安を解消してしまうのであり、総じて銀価の変動・不安定による為替相場の動揺・不安定は、貿易の伸長にマイナスの作用を果たすことになるのである。このため、銀本位制度維持国も金本位制度の採用に踏み切らざるをえず、最後まで残った中国も1935年に金本位制度の一つである金為替本位制度に移行した。これをもって銀は完全に廃貨され、したがって貨幣制度としての銀本位制度もまた完全に放棄されるに至ったのである。
[齊藤 正]
金属貨幣の鋳造・流通はきわめて古い時代から行われていたが,近代になると,国家は法律を制定してその国の貨幣制度の中心となる基本貨幣を定めて,その自由鋳造,自由廃幣,強制通用力を認め,またこの貨幣を基準にして貨幣単位の価値を示すようになった。このような制度を本位制度と呼び,基本貨幣を本位貨幣といっている。銀本位制度は,銀が本位貨幣となっているもので,貨幣単位の価値が一定量の銀によって示され,商品の価格も銀の価値を標準として表示される。
銀のみが本位貨幣となっている銀単本位制度の例は,歴史的にみてそれほど多くない。しかし,法制的には銀貨と金貨とがともに本位貨幣となる金銀複本位制度でありながら,事実上銀貨のみが流通し銀本位制度となんら異ならない場合が少なからずみられる。19世紀のヨーロッパ大陸諸国の多くは,金銀複本位制を採っていたが,銀の市場価格が下落を続けて法定比価との間に開きができ,金の流出と銀の流入が生じて,銀貨のみが流通し,事実上銀本位制となった。当時,世界経済において主導的地位を占めていたイギリスが金本位制度であったうえに,銀の市場価格の変動が大きくまた下落傾向が顕著であったため,銀本位制諸国は深刻な影響をうけ,19世紀の終りにはほとんどの国が金本位制に転換した。最後まで残った中国も,1930年代には銀本位制を放棄している。
日本の近代貨幣制度は,1871年(明治4)5月の〈新貨条例〉に始まるが,そこでは世界の大勢にならって金本位制が採用された。同時に,当時の東洋市場における一般的支払手段であった洋銀と同じ品位・量目の1円銀貨(貿易銀)を発行し,貿易などの対外支払に使用した。78年にこの銀貨の国内一般通用が認められたため,事実上金銀複本位制となったが,金貨の流出と政府不換紙幣の大量発行によって金貨はほとんど流通しなくなり,さらに松方デフレ後の86年には,政府紙幣の平価による銀兌換(だかん)を開始したことによって,事実上銀本位制に移行し,97年の金本位制度採用にいたるまで継続した。
執筆者:新保 博
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…幕末の知識人はもとより庶民一般も,円を流入したメキシコ銀貨に対してのみならず,小判の単位両の別称,さらには両に代わるものとしてさえ使用するようになった。他方,ドル専用の当て字として弗を使用するという幕府官僚のくふうが円からドルの意味を払拭(ふつしよく)したこと,明治政府成立時に円の称呼をもつ貨幣の鋳造が地球上になかったことも円が日本貨幣名となる一因を形成するが,1870年に香港ドル銀貨と同じ品位・量目の銀貨を本位貨幣とする銀本位制度を採用するとの決定がその総仕上げとなる。しかし,この決定直後から視察・調査・研究のために渡米した伊藤博文からの建言により,急きょ金本位制度に改変されることになったが,円はそのまま流用され,〈新貨条例〉による正式採用決定をみる。…
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【貨幣の経済学】
[貨幣の定義・機能]
貨幣とは,通常次の三つの機能を果たすものと定義される。すなわち,(1)決済手段(支払手段)としての機能,(2)価値尺度としての機能,(3)価値貯蔵手段としての機能である。貨幣の決済手段としての機能とは,広く社会で行われるさまざまの経済取引に際し,その取引の決済が貨幣の移転を通じてなされることを意味している。また,価値尺度としての貨幣の機能とは,取引される多様な財・サービスの価格を貨幣の単位,たとえば円やドルで表示することによって,それらの財・サービスの交換比率を統一的に表現することを可能としていることを示している。…
…周期表元素記号=Ag 原子番号=47原子量=107.8682±3地殻中の存在度=0.07ppm(67位)安定核種存在比 107Ag=51.35%,109Ag=48.65%融点=961.9℃ 沸点=2212℃固体の比重=10.49(20℃)液体の比重=9.4(961℃)水に対する溶解度=2.8×10-5g/l(25℃)電子配置=[Kr]4d105s1 おもな酸化数=I,II周期表第IB族に属する金属元素。…
※「銀本位制度」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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