長周期地震動(読み)チョウシュウキジシンドウ(英語表記)long-period earthquake ground motion

デジタル大辞泉 「長周期地震動」の意味・読み・例文・類語

ちょうしゅうき‐じしんどう〔チヤウシウキヂシンドウ〕【長周期地震動】

地震で発生する、周期が数秒以上のゆっくりとした長い揺れ。震源から遠くまで伝わり、特に平野部で揺れる。高層ビルなどの大型構造物が共振しやすく、従来免震構造制震構造では十分ではない可能性が指摘されている。また、石油タンクなどでスロッシングが生じる原因となる。周期が2~5秒のものをやや長周期地震動、数百秒以上のものを超長周期地震動という。→短周期地震動スロッシング長周期地震動階級

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「長周期地震動」の意味・わかりやすい解説

長周期地震動
ちょうしゅうきじしんどう
long-period earthquake ground motion

地震で発生する、周期が数秒以上のゆっくりとした地震動。建物には固有周期という、その建物固有のもっとも揺れやすい周期がある。普通の木造住宅の固有周期は1秒以下であるが、高層ビルなど大型構造物になるほど、一般にその固有周期は長くなる。たとえば、50階建て程度の建物の固有周期は4秒から6秒ほどである。構造物の固有周期と地震動の周期が一致すると、構造物はきわめて大きく揺れることになり、大きな被害を生じうる。地震の規模が大きいほど、長い周期の地震波がより多く放出され、さらに長い周期の地震波ほど、より遠くまで伝わりやすい。また、厚く柔らかい堆積層(たいせきそう)では地震波がより増幅されるという傾向がある。そのため、震源の浅い大規模な地震が発生した場合、震源から遠く離れた場所でも、堆積平野では長周期地震動のため大規模構造物に大きな被害が生じることがある。そのような例として、1985年9月19日のメキシコ地震の際の震央から約400キロメートル離れたメキシコ市での中高層ビルの甚大な被害や、2011年(平成23)3月11日の東北地方太平洋沖地震の際の東京や大阪などでの高層ビル高層階の大きな揺れがあげられる。

 従来の「気象庁震度階級」は、地表付近の比較的周期の短い揺れを対象としているため、高層ビル高層階の揺れを表すのには適切ではない。そこで、気象庁では、おおむね14、15階建て以上の高層ビルを対象として、長周期地震動による揺れの大きさの目安とするため、2013年に「長周期地震動階級」を導入し、「長周期地震動に関する観測情報(試行)」として運用を始めた。2016年の熊本地震では、運用開始後初めて4階級中最大の「階級4」が観測された。

[山下輝夫 2017年6月20日]

長周期地震動階級

気象庁が暫定的に設定した長周期地震動階級の内容は以下のとおりである。下記記述の絶対速度応答スペクトル値とは、地震計の観測データから求めた高層ビルの高層階の床の揺れ(静止した空間に対する揺れ)の速度である。

〔1〕階級1
(a)絶対速度応答スペクトル値(Sva) 5cm/s以上15cm/s未満
(b)人の体感行動 室内にいたほとんどの人が揺れを感じる。驚く人もいる。

(c) 室内の状況 ブラインドなど、吊り下げものが大きく揺れる。

〔2〕階級2
(a)絶対速度応答スペクトル値(Sva) 15cm/s以上50cm/s未満
(b)人の体感・行動 室内で大きな揺れを感じ、物につかまりたいと感じる。物につかまらないと歩くことがむずかしいなど、行動に支障を感じる。

(c) 室内の状況 キャスターつき什器がわずかに動く。棚にある食器類、書棚の本が落ちることがある。

〔3〕階級3
(a)絶対速度応答スペクトル値(Sva) 50cm/s以上100cm/s未満
(b)人の体感・行動 立っていることが困難になる。

(c)室内の状況 キャスターつき什器(じゅうき)が大きく動く。固定していない家具が移動することがあり、不安定なものは倒れることがある。間仕切壁などにひび割れ・亀裂が入ることがある。

〔4〕階級4
(a)絶対速度応答スペクトル値(Sva) 100cm/s以上
(b)人の体感・行動 立っていることができず、はわないと動くことができない。揺れに翻弄(ほんろう)される。

(c)室内の状況 キャスターつき什器が大きく動き、転倒するものがある。固定していない家具の大半が移動し、倒れるものもある。間仕切壁などにひび割れ・亀裂が多くなる。

[山下輝夫 2017年6月20日]

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百科事典マイペディア 「長周期地震動」の意味・わかりやすい解説

長周期地震動【ちょうしゅうきじしんどう】

地震によるさまざまな周期をもつ振動(揺れ)が建物の揺れと共振してさらに大きな振動を起こす現象。とくに長周期地震動は,震源からはるか遠方にある都市の巨大施設や超高層ビルに大きな被害を与える可能性があり,超高層建築の新たな課題として指摘されている。2011年3月の東日本大震災を引き起こした東北地方・太平洋沖大地震の際に,東京の高層ビルが大規模な揺れを経験しており,長周期震動が起きたとされている。従来,超高層建築は地震の震動を吸収する構造設計がなされ倒壊・崩壊の恐れはないとされてきた。しかし,倒壊・崩壊に至らずとも,長周期地震動によって巨大な揺れが起こるために人的被害・施設器物の大規模な破壊が起こる可能性がある。長周期震動は,震動を受ける建物が持つ固有周期との関係もあり発生のメカニズムの究明が容易でないため,従来の免震構造・耐震構造では十分でなく,対策はかんたんではない。文部科学省に設置されている地震調査研究推進本部では,長周期地震動の調査研究を主要な課題の一つと位置づけ,長周期地震動予測地図を作成し公表している。

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知恵蔵mini 「長周期地震動」の解説

長周期地震動

地震で発生する、周期が数秒以上のゆっくりとした長い揺れ。高層ビルなどの大型構造物が共振しやすく、従来の免震構造・制震構造では対策が十分ではない可能性が指摘されている。また、石油タンクなどでは、容器の中の液体が外部からの比較的長周期な振動によって揺動するスロッシング現象が発生し、場合によっては容器から溢れ出る被害が生じる原因となる。周期が2~5秒のものをやや長周期地震動、数百秒以上のものを超長周期地震動という。免震構造のビルでは長周期震動によって、揺れが増幅される可能性がある。2012年10月、気象庁では、長周期震動の情報を防災に役立てるため、有識者による検討会を開始、2013年3月を目標に長周期震動情報提供のガイドラインをまとめることにしている。

(2012-10-24)

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