落語。もともとは上方落語の《貧乏花見》。明治30年代に東京に移入された。貧乏長屋の連中が家主に呼びだされ,店賃(たなちん)の催促ではないかとおそるおそる行ってみると,みなで花見に行こうと言う。家主が用意した酒の代りの番茶,玉子焼の代りのたくあんなどを持って花見に出かけたが,番茶では酔えない。茶を飲みすぎて気分が悪くなった男が,どんな気持だと聞かれ,〈井戸に落ちた時と同じような気持だ〉。東京はここが落ちだが,上方落語は,なれ合い喧嘩でまわりの花見客を退けた長屋の連中が,残った酒肴(しゆこう)で酒宴を開く。それを見た幇間(たいこもち)が文句を言うと長屋の連中がおどかす。〈てめえ何しに来た〉〈お銚子(ちようし)のおかわりを持って来ました〉。
執筆者:興津 要
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
落語。上方(かみがた)落語『貧乏花見』を、明治30年代に2代目蝶花楼馬楽(ちょうかろうばらく)がくふうを加えて東京に移した。貧乏長屋で花見に行くことになったが、家主の提案で、酒は番茶、かまぼこは大根、卵焼きは沢庵(たくあん)で代用することにした。それを持って向島(むこうじま)へ出かけたがいっこうに盛り上がらない。「卵焼き」をかじったり、「酒」に酒柱が立ったりしたあとに俳句をひねる人がいる。「長屋中歯をくいしばる花見かな」。早く酔えといわれても番茶では酔えない。1人が茶を飲みすぎて気分が悪くなり、どんな気持ちかと聞かれて「井戸へ落ちたときのような気持ちだ」。そのうちに、にせのけんかをすると、芸者や幇間(ほうかん)を連れた花見客たちが酒や肴(さかな)を残して逃げたので、長屋の者たちはそれを盗んで本物の酒盛りを始める。それを見た幇間が角樽(つのだる)を振りかざしてどなり込むが、長屋の連中に逆に脅かされる。「実は踊らしてもらおうと思って」「じゃあ、その手の樽はなんだ」「お酒のお代わりを持ってきました」。5代目柳家小さんの十八番。
[関山和夫]
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