改訂新版 世界大百科事典 「電気伝導度異常」の意味・わかりやすい解説
電気伝導度異常 (でんきでんどうどいじょう)
conductivity anomaly
地磁気はつねに変化しており,精密な測定をすることにより,時々刻々の微小な変化を見ることができる。特に磁気あらしのときなどには,数分~数時間の周期を持つ変化が顕著に見られるが,このような変化を地磁気短周期変化あるいは地磁気短周期じょう乱と呼ぶ。地磁気短周期変化の様相が,あまり離れていない2観測点の間で著しく異なることがある。極域など高緯度地方は別として,日本など中・低緯度では,磁気あらしは非常に広い空間にわたってほとんど一様に近いとみなせる。したがって,なんらかの原因で二次的な磁場がつくられて,このような現象を生じていると考えざるをえない。日本の力武常次らは,1940年代後半からこのような現象に関する研究にとりかかり,この原因が地球の内部にあることを明らかにした。直接的には,地球内部の電気伝導度分布に不均質があることが原因と考えられ,このような異常は電気伝導度異常と呼ばれるようになった。
地磁気変化異常と電気伝導度分布
電気伝導度異常による地磁気変化異常は,その鉛直成分に最も顕著に現れる。図に単純化した電気伝導度異常を模式的に示した。この例では,地下構造は紙面に直交する方向に一様であるとする。地磁気が水平方向に変化すると,電磁誘導によってそれと直交する方向に誘導電流が流れるが,地下の良導部分には特に強い電流が流れる。これによって作られる磁場変化を地表で観測すると,この図に示したように,良導体に対する位置によってその鉛直成分は逆向きとなる。地上の数多くの地点で地磁気変化異常が観測されると,その空間的広がりや周期特性などを詳しく調べることにより,そのような地磁気変化異常をもたらす地下の電気伝導度分布を知ることができる。電気伝導度異常の研究には,この地磁気変化の観測にもとづく方法のほかに,地磁気・地電位差観測にもとづくマグネトテルリック法や人工電位法による電気探査も用いられる。
→地電流
海の影響
海水の電気伝導度は非常に高く,地表付近の岩石などに比べると1000倍あるいはそれ以上も良導的である。このため海岸に面した地域の地磁気変化には,海の影響が強く現れ,大きな鉛直成分の変化が観測されるが,内陸にいくにつれその振幅は急速に減衰する。このような現象を,地磁気変化の海岸線効果という。また,島,半島,海峡などでは,それぞれ離島効果,半島効果,海峡効果と呼ばれる特異な現象が見られる。日本のように海洋に囲まれた地域の地下の電気伝導度分布を調べるとき,上述したような海洋の影響をとりのぞくことが重要である。そのためには,陸上における観測ばかりでなく,どうしても海における観測が必要となる。また,地球の内部構造を調べるとき,海底下に関する情報は不可欠である。こうした目的で,1970年代から各国で海底磁力計や海底電位差計の開発が開始され,アメリカにおいていちはやく実用的な装置が作られ,成果があげられた。日本においても1981年に海底磁力計が開発され,周辺海域で観測がなされるようになった。
地震,火山と電気伝導度異常
通常,岩石の電気伝導度は温度と含水率によって支配される。地震に先だって地下の岩石に微小な破壊が生ずると,地下水の分布が変わるなどの原因で,地下の電気伝導度が変化する可能性がある。1923年の関東地震に先行して,柿岡における地磁気変化の鉛直成分と水平成分の比が約20%も変化したという報告がある。こうしたことから,地震予知を目的とした地磁気変化の観測が,現在でも各地で実施されている。また溶融状態の岩石は,常温に比べきわめて高い電気伝導度を有する。したがって,火山において地下の電気伝導度の変化を測定することにより,地下の状態,特に温度変化を間接的に知ることができる。現在,国内のいくつかの火山では,噴火予知の目的で,地磁気変化や地電位差変化の観測が行われている。
執筆者:歌田 久司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報