改訂新版 世界大百科事典 「噴火予知」の意味・わかりやすい解説
噴火予知 (ふんかよち)
火山の噴火による災害は火砕流,土石流,泥流,溶岩流によるもののほか,多量の軽石・火山灰の降下,津波など多様であって,日本では過去に多くの災害を記録している。これらの災害を軽減するためには,火山の噴火をあらかじめ知ることが必要である。火山噴火予知とは,(1)噴火する場所,(2)いつ噴火するか,(3)噴火のタイプと規模,(4)噴火はどのような推移をたどっていつ終息するか,を前もって予測することである。場所については,山頂火口か,山腹のどこからかをいわなくてはならない。時については,短期的予知としては数時間~数日の範囲で,長期的には数ヵ月~数年という時間尺度で考える。噴火のタイプについては,個々の火山でマグマの性質や,過去の噴火の記録から,ほぼ推定できるが,規模の推定はそう簡単ではない。過去の大噴火も初めは激しくなく,しだいに激しさを増し,やがて大爆発,火砕流発生,溶岩流発生という経過をたどったものが多くあり,活動の推移予測は種々の観測と噴出物の研究から行わなければならない。地震予知に比較して難しいのはこの点である。火山はその場所が決まっているから,場所についての要素がなくなるというわけではない。多くの活火山は観光地であり,周辺の開発も進んでいるので,噴火発生の場所が山頂火口か,ほかの場所かで社会に与える影響がおおいに異なる。
噴火現象は,マグマ溜りの圧力が増大し,マグマが火道を上昇して突然にマグマの液相と気相の分離が起こる現象であるから,原理的に確率過程に支配されている。したがって,臨界状態になっても噴火に至らないこともある。このような現象に対しては,確率論で噴火の危険率を算定する方法がとられる。浅間山では,噴火の前に火口周辺に浅い微小地震が多数発生しはじめることが長い観測を通じてわかり,この数から噴火の危険率をパーセントで表す実験式が得られた。マグマ溜りの圧力が増大すると,山体は隆起し,マグマが火道を上昇し,ガスが分離しはじめると,火道の周囲に力が加わり,微小地震が発生する。その他,噴気孔の温度上昇,火山ガスの増加など噴火の前兆現象を可能な限り器械観測により常時とらえることが必要である。また,このほか,地磁気,重力の変化などマグマの動態に応じて種々の物理量が変化する。マグマの性質が異なると,前兆現象の現れ方も異なってくる。たとえば,流動性のマグマを流出する玄武岩質火山では,熱,地磁気などに変化が期待され,安山岩質火山では微小地震の発生や,土地の傾斜などがみられる。一方,有珠山のようなデイサイト火山では有感地震が発生しはじめると,すぐ噴火につながる。
日本では,大学と気象庁などの関係機関が参加して,1974年より,火山噴火予知第1次五ヵ年計画が国の施策として発足した。これにより,火山観測所の観測計器が近代化され,きめのこまかい火山噴火予知の体制が整備されつつある。
→火山観測
執筆者:下鶴 大輔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報