語源は諸説あるが、刀剣の名称は、植物の呼称にちなむものが多く、「さや(鞘)」も、石製刀子(とうす)を入れた革鞘の形状がエンドウマメなどの莢(さや)に類似しているところから名付けられたものと思われる。他にも、柄が頭に近づくにつれ太くなり先端に玉葱状のふくらみのある金具をつける「頭槌(かぶつち)の大刀」は、蕪(かぶ)に見立てたもの、「蕨手刀(わらびでとう)」は、中子(なかご)が柄となり、先端にゆくにしたがって細くなり先が丸形になっている様子が蕨の芽を出した形に似ているところからつけられた、といった類例が挙げられる。
太刀,刀,短刀,脇指や槍,薙刀などの刃の部分を納める筒状容器。刃自身とそれを使用する者を保護するためのものである。日本では1982年,奈良県の唐古・鍵遺跡から石剣の鞘の出土したことが報告されたが,一般には鉄製の刀剣類が使用されるとともに普及した。古墳時代には金銅板製を多く見,奈良時代以降は木製の下地に漆を塗ったり,革で包んだものが中心となる。この下地は朴(ほお)を第一とし,遺品もこれが最も多いが,正倉院のものには牟久木(むくぎ)のほか他の木材を使用したと認められる作もある。これらの鞘の形状は扁平状の平鞘と倒卵状の丸鞘に分けることができ,平安・鎌倉時代には平鞘はおもに実戦に用いる兵仗に,丸鞘は儀仗に用いられた。室町時代から江戸時代には丸鞘が一般的となり,これに線巻の鞘にならって巻き上げたように刻みを入れた刻鞘(きざみざや)も見られる。また装飾は実用的で各時代を通じて最も多い黒漆塗のほか,梨地,沃懸地(いかけじ),蒔絵,螺鈿などをほどこした華麗なもの,また鮫革包や金銀銅板を蛭巻(ひるまき)したり,あるいは透彫りした薄板を伏せたものも現存する。このように鞘にはさまざまな加飾が行われているが,とくに江戸時代の漆塗鞘には非常に多種の技法がみられ,漆工芸史上も注目すべき位置をしめている。なお,太刀の漆塗鞘には官位による規定があり,公卿は梨地蒔絵螺鈿,五位以上は梨地蒔絵,検非違使(けびいし)は沃懸地,六位以下は黒漆とされていた。
→装剣金具 →刀装
執筆者:原田 一敏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
刀剣類(槍(やり)や薙刀(なぎなた)をも含む)の刀身の刃部を保護するための外装。アジア、ヨーロッパなど諸外国の刀剣鞘には革製、金属製のものもあるが、日本刀の鞘のほとんどは木製漆塗である。用材はホオノキ(朴)で、木のままのものを白鞘(しらさや)(素鞘)、または休め鞘といい、漆塗のものを塗鞘または身鞘という。多くは黒塗で、とくに江戸時代の正式大小拵(ごしらえ)の鞘塗は黒蝋色(くろろいろ)塗と定められていた。そのほか塗鞘には朱塗、青漆、梨地(なしじ)、沃懸地(いかけじ)などさまざまな色塗や、種々の技法を用いた変わり塗のものがあり、変わり塗技術の発達は鞘塗が基礎となったといわれる。『国花万葉記』などに鞘師、鞘塗師(ぬし)の名がみえる。ほかに革包、研出鮫(とぎだしさめ)着など皮で包んだもの、金銅荘(こんどうそう)鞘や蛭巻(ひるまき)鞘のように金属を被せたり、巻き付けたものがある。
日本刀の鞘には尻(しり)鞘、見せ鞘など特殊なものもあるが、鞘は刀身の大きさや反りによっておのずとその形が定まるため、太刀(たち)、打刀(うちがたな)、小さ刀、飾剣(かざたち)など種類によって鞘の様式もさまざまである。
[小笠原信夫]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…同様なもので近畿の弥生時代を中心とする中央部に多いのはサヌカイト製で,細長く,鎬(しのぎ)がある。このうち打製のものは,槍とされたこともあったが,基部に樹皮を巻いたり鞘(さや)を伴うものがあり,短剣である。しかしニューギニアなどには,黒曜石を打ち欠いて長い柄をつけた石槍があり,かならずしも石にかぎらないが,槍と盾(たて)とが基本的な武器としてひろく使われているから,日本の先史時代のもので,短剣とも槍とも断定しがたいものも,いちおう石槍と解されている。…
※「鞘」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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